第32話 お誘い

「ごめん、春野さん。約束すっぽかして先に帰ってしまって」


 春野さんに頭を下げる。しかし、春野さんはなんのことと言った感じでよくわかってない顔をしている。


 そこで事情を説明するとようやく納得してくれた。


「確かに講義終わって川上くんのところ言ったらもういないし、小川くんに聞いたら帰ったって言ってたからびっくりしちゃったよ。私も追いかけようとしたんだけどみんなに捕まっちゃって」


「ふ、ふーん。いちおう聞いてみるけど、なんで捕まってたの?」


 俺の質問に春野さんは顔を紅くし、もじもじしながら答えた。めちゃめちゃ仕草が可愛いけど今は割愛する。


「川上くんと……付き合ってるのかって。それでうんって答えちゃいました」


 えへへと嬉しそうに報告してくれる春野さん。あ、これ明日大学行ったら男共に殺させるやつだ。学科のアイドルを奪った男とか言われそう。


「もしかして私たちが付き合ってること教えちゃダメだった? それだったらごめんなさい。私、本当に浮かれちゃってて……」


「いや、いいんだよ。それでなんだけどさ。こ、今度俺とデート行って……くれないかな?」


「えっ?」 


「えっ?」


 おいおいおい!! 川上颯汰なにを考えているんだよ! なんの脈絡もなくデートに誘うとかアホ極まりないだろ。春野さんだってバカじゃないのとか思ってるに違いないだろ。


「あ、今のは」


「うん! 行きたい行きたい!」


 冗談という前に春野さんが行きたいと言ってくれた。その目はキラキラしていてもう引けない状況。


 でも行きたいと言ってくれたのは素直に嬉しい。本当はもっとかっこよくスマートに誘いたかった。


「それでどこ行くの?」


「うっ……それはまだ考えてなくて。ただ行きたいなって思っただけなんだ」


「なるほどね。でも嬉しいよ。私とデートしたいって思ってくれて。彼女冥利に尽きるよ」


 そう言って微笑む春野さんをみて頭がクラクラする。これは熱中症の症状? それとも春野さん可愛すぎてクラクラしちゃう病? 


「なら、今からどこに行くか一緒に決めよ。私の家でもいいけど、どうする?」


「俺の家で!」


 即答した。まだ女の子のまして彼女の家はハードルが高すぎる。俺の部屋に彼女が来るってのもなかなかハードルが高いけど。


 ちゃんと部屋の掃除しておいてよかった。日頃ちゃんとしていた自分を褒めてあげたい。


「じゃあ一回荷物置いてくるね。そういえばお部屋って何号室なの?」


 確かに同じアパートに住んでるのは知ってるけど部屋までは知らない。当たり前だったかも知れないけど。


 部屋番号を教えると春野さんは手を振って自分の部屋に戻って行った。


「俺の部屋に春野さんが来る……だと?」


 高速で部屋に戻って部屋を確認。片付けてはいるが変な匂いとかしない? やばいやばい。彼女と同じ部屋で2人きりって、それもうお家デートというやつでは?


 とりあえずリセッシュ、リセッシュ。


 あとは覚悟を決めるだけ。しばらく落ち着こう。


 ピンポーン


 そんな俺の落ち着く暇もなく無慈悲にインターホンが鳴る。


 覚悟は決まってないけど、ドアを開けよう。


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