第27話 題名が付けれません

「だ……だめっ」


 心臓が止まった。比喩ではない。全身が凍り付くように動かなくなる。


 だめという言葉が頭の中を駆け巡る。そしてその言葉を完全に理解した時、春野さんに向けてい手が、力なく行き場所を失ったように下へと垂れた。


 まぁこうなることも予想していたさ。うん。彼女いるとか嘘つくような人と付き合いたいとか思わないよな。うん……分かってた……分かってた……


 でもきついなぁ。春野さんが正面にいるから我慢してるけど、家に帰ったら多分泣いちゃうな。ご飯も食べれないかも。


 バイト先も変えないといけないかな。もう春野さんと普通に接することは無理だろうし。でもここは働いていて楽しかったなぁ。


 って頭下げたままなに考えてるんだ。ここは大人しく引き下がろう。本当はそんなことしたくない。もっともっともっともっと食い下がって、春野さんと付き合いたかった。


 でも、俺にそんな資格はない。バイトだってすぐ辞めれるわけではない。これ以上傷を深くする前にこの場から離れよう。


 離れよう……


 そう思った時、春野さんがポツリと口を開いた。


「だめだけどだめじゃない……だめだけど……でもっ」


 顔を上げて春野さんの方を見た。春野さんはまたゆっくりと言葉を紡ぐ。


「彼女いるって……そんなくだらない嘘ついてたこと許せない。昨日、あんな告白して私が逃げたのに……でも今好きって言ってくれるし……もう意味分かんない」


 暗闇でも分かるくらいに顔を紅くして。 


「意味分かんないけど……でも私も……川上くんのことやっぱり好きだよ……」


 別の意味で心臓が止まるかと思った。春野さんが可愛すぎる。今まで見てきた中でダントツ一番だ。


 俺も春野さんの告白に応える。


「俺も春野さんのこと好きだ。誰にも渡したくない。離したくない。これからの大学生活、一緒にいたい……だから……俺と付き合ってください」


「はいっ。もう絶対離しちゃだめだからね。あんな嘘も、もちろんついちゃだめ」


 俺の胸に春野さんが飛び込んでくる。俺もそれに合わせるように抱きしめた。俺と春野さんとの距離が遂にゼロになった瞬間だった。


 抱きしめて初めて感じる温かさ。それにこんなに身体が細い。思ってたよりすっごく華奢だったんだ。


 ここまでバクバクしているのは俺の鼓動か、それとも春野さんの鼓動か。たぶんどちらともだろう。


「春野さん、好きだよ」


 さらに力を込めてギュッとすると春野さんもそれに応えてくれる。今、俺は幸せでいっぱいだ。


「私も好き。でもさ、川上くん……こんな場所でこうしてるのもね。そろそろ帰ろう? 私たち、これからたくさん時間あるんだから」


「そっそうだね。本当、こんな駐輪場でなにやってるんだか。でも」


 もう一度春野さんの目をしっかりと見て。


「これからよろしくお願いします」


「はいっ。こちらこそよろしくお願いします。じゃあ帰ろっ」


 俺は今日のことを絶対忘れないだろう。春野美吹さんと付き合い始めた日。告白した場所はムードもなにもない場場所だったけど。でも俺の選択は間違ってなかった筈だ。


「おーい、置いて帰っちゃうよー」


「今行くよ!」


 先に自転車に乗った春野さんが手を振る。せっかく付き合い始めたのに置いて行かれるなんてごめんだ。今は目の前にいる俺の可愛い彼女に集中しよう。


 そして俺も自転車を漕ぎ出だし、春野さんの横へ行くのだった。







 ===


 読んで頂きありがとうございます! 九条けいです。沢山の人に応援頂き、遂に★200突破です。本当に嬉しいです。そしてようやく付き合い始めた2人ですが、ここからがラブコメであり本番です! まだまだまだまだ続きますのでこれからも応援よろしくお願いします! コメントには遅くなりますが絶対返信いたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る