第28話 2人の帰り道

「えへへっ。えへへっふんふんっ」

 

 最高の夜。俺は可愛い可愛いか、彼女と2人自転車を漕いでいた。前回もドキドキしていたが、気持ちを伝えるてからの今回もまた違うドキドキ感だ。


 そして横の春野さん。顔がニヤけててハンドル捌きがぎこちない。笑顔が見れるのはいいけど……危なっかしい。


「春野さんしっかり。事故になっちゃうよ」


「えへへっ。心配しなくても大丈夫! 浮かれてるだけだから。川上くんがわったしの彼氏〜」


 心配しかない。俺だって浮かれたいのを必死に我慢して安全運転をしているというのに。でもここまで嬉しそうにしてくれると俺の方まで嬉しくなる。


 俺も家に帰ったら喜びの舞を踊ること間違いなしだ。好きな人と結ばれるというのはここまで素晴らしいことなのか。


「ねぇねぇ。好きって言って?」


「ぶっ!?」


 危ない! 急にそんなこと言ってくるからびっくりしてハンドル操作を間違えて電柱に激突するところだった。


 やばいぞ。この春野さんのデレデレ感。可愛いとかそんな次元を通り越している。これが、俺にだけ見せてくれる表情。


 それにしても春野さん別人レベルだな。これ、明日の大学とか、バイト大丈夫かな。


「ねぇ言ってよぉ。私も言うから〜」


 だめだ。今、そんなこと考える暇なんてない。彼女がかまってちゃん過ぎるから。


 夜の涼しい風を感じる暇もなく、春野さんに応えるように「好きだ」と言えば、嬉しそうに「好きだよ」と返してくれる。


 この時間がすごく幸せでずっと続いて欲しいと思ってしまう。


 しかし、楽しい時間はすぐ終わるもの。自転車を爆速で漕いだ筈はないのに、もう俺たちの家にまで着いてしまった。


「名残惜しいけどもう、今日はお別れ、おやすみだね」


「一瞬だったよ。今日のことは一生忘れない」


「私も。だって川上くん、実は彼女いないんだもん。これは末代まで語り継ぎたい話だよ」


 そんな俺の恥ずかしい話を他の誰かに言われるとか絶対嫌だ。まさかの付き合いだして一瞬で弱みを握られてしまった。恋愛は惚れた方が負けというがこれは大敗では?


「冗談だよ。川上くんがそのことを言ってくれなかったら私たちは結ばれなかったわけだし、そんなこと言ってもしょうがないしね。結果が大切」


「対応が大人すぎる。さて、じゃあ……部屋に戻ろうか」


「うん……また明日ね。ってこんなしんみりしなくても良いのに。これから毎回こんなことになっちゃったら大変だよ」


「それもそうだ。ならせーのでお別れしよう」


 今日だけはこんなことになるのも許して欲しい。明日、これが夢だとなるのが少し怖いのもある。


「「せーのっ」」


「「……あははっあははっ!」」


 どちらとも一歩も足を動かさなかった。それが可笑しくて可笑しくて。俺たちは夜中ということも忘れて大笑いしてしまう。


 そして冷静になったところで今度こそ渋々といった感じで俺たちはなんとか部屋に戻った。




 追記 バイト先で彼女いると嘘ついたら彼女ができた

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