第26話 告白
そして時は経ち春野さんの仕事終わりの時間がついにやってきた。そろそろ着替え終わった春野さんがこちらにやってくるだろう。
落ち着け落ち着け。ドクンドクンと煩い心臓、もう少し大人しくしてくれ。
そしてお疲れさまという声が聞こえてきた。春野さんが来るまではもう秒読みだ。
コツコツと靴音が鳴ってこちらにやってくる。そしてついに春野さんがやって来た。
春野さんは俺の姿を認識すると驚いた顔をして一度歩くのをやめたが、また歩き出して俺のことは気にせず自転車に手をかける。
このまま自転車に乗られたら今まで待った意味がない。俺は春野さんの手を掴む。
ビクッと身体を震わせる。そして俺の方を睨んできた。
「なんなの!」
「春野さんと話したいことがある」
強い眼力に怯みそうになるがグッと堪える。ここで引いたら負けだ。俺はここで全てを告白するつもりで待ってたんだ。もう後戻れない。
「私はあなたと話すことなんてもうない! これ以上私の傷を広げないで! もう辛いの! 私に関わらないでよぉ」
春野さんの目にうっすらと涙が溜まっていく。
「それは無理だ! だって……だって俺は春野さん……春野美吹さんのことが好きなんだっ!」
静寂が訪れる。春野さんは震えるばかりで言葉を発してくれない。深夜の夜の静寂が今は恨めしい。
静寂だからこそわかる。俺の心臓がこれでもかと激しく拍動している。もしかしたら春野さんに伝わっているんじゃないかと言わんばかりだ。
そしてこの静寂を打ち破ったのは春野さんだ。
「どういうつもりなの! か、か……川上くんには地元に彼女さんがいるって! なんなの!? 二股かけるつもり!? 私、そんな最低な人だと思ってなかったしそんな川上くん嫌いなんだけど!」
肩では息をするほど激しく言葉を発する。かなり怒っている。
「俺に彼女はいないんだ! 俺が好きなのは最初から春野さんだけなんだ!」
何がどうなっているのか分からないといった感じで、春野さんが怒った表情から困惑へと表情を変える。
「俺……彼女いなくてさ。いるっていうのは真っ赤なウソなんだよ」
「はっ……えっ……? ならなんでそんなことを……?」
「お恥ずかしながら……河本さんに彼女いるのかって聞かれて見栄を張ってしまって。言い訳になるけど、そこから周りに広まるとは思ってなくて。それで今まで誤魔化してきたんだ」
「なにそれ……なら私はなんであんなに悩んだの……」
涙を拭きながら春野さんが俺の方をにっこり見つめる。
そして俺はもう一度、心を込めて、春野さんに気持ちを伝えた。
「俺は春野美吹さんが好きです。これからもずっと……俺と付き合ってください」
頭を下げて春野さんに向かってまっすぐ手を差し出す。この手が握られたら、俺たちは彼氏彼女になれる。
春野さんも俺のことを好いてくれている。しかし、返ってきた返事は俺が思うものではなかった。
「だ……だめっ」
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