第4話 控室で
「おはようございまーす」
今日は土曜日。と、いうことでバイトだ。11時から、休憩を挟んで21時までの8時間労働。
かなり長いようにも思えるかもしれないが、休日ならこれくらい普通だ。休憩時には米屋の料理を賄いとして無料で食べることができるのでとても助かっている。
ただ、休日はお客さんが多いから大変だ。さて今日も頑張りますか。
「おはヨ、川上クン」
俺と同時刻にシフトインしてきたのはアメリカ人のシャーロットさん。金髪碧眼とはこのとこだと言わんばかりの容姿にすらっとした高身長。誰もが認める美少女だ。
年齢は詳しくは知らないが俺と同じかちょっと上くらい。日本の文化が好きでこうして働きながら色々と堪能しているそうだ。
そしてキッチンとホールのどちらともをこなすエリートウーマン。この米屋にはなくてはならない人材だって店長が言ってた。
「おはようございますシャーロットさん」
「もう、シャーロってニックネームで呼んでヨ。何回言っても聞いてくれないネ」
そう言って肩をパンパンと叩かれる。ちょ、距離近いって! アメリカだとこれくらいが普通なんだろうけど、ここは日本だから! ピュアな日本男子にだと勘違いしちゃうって!
「あはは、シャーロットさんって呼ぶ方が俺は気楽でいいんですよ」
なんとか努めて冷静に返事をする。それでもシャーロットさんの攻勢は止まらない。
「やっぱり私と川上クンの親密さが足りないカナ? どうしたらシャーロって呼んでくれる?」
シャーロットさんがさらにグイグイくるその瞬間。底冷えするような声が俺の耳に届いた。
「私も着替えたいので早くしてくれませんか川上くん」
「は、はいっ! 申し訳ございません!」
そこにいたのは春野さん。なんだそのゴミを見るような目は。俺、何にもしてないよね。そりゃ控室でこうしていたら邪魔だろうし、そんなことろで無駄話をしていたら怒るのも仕方ない。
んっ? 全面的に俺が悪い?
「あ、おはよー美吹チャン。今日もヨロシク」
「あ、シャーロさんおはようございます。今日も頑張りましょうね」
シャーロットさんには笑顔で返事する春野さん。ちょっと待って。確かに俺も邪魔だったけれど、主犯格はシャーロットさんですよ?
「アチャー。川上クン正妻に怒らレチャッタ。ごめんごめん」
「「正妻じゃないですからね!」」
珍しく俺と春野さんとの意見が合う。そう俺たちはそんな関係じゃない……
今はまだ。
それにしてもシャーロットさんは日本に悪い影響を受けているみたいだ。実はこの人、日本の文化は文化でもオタク文化に興味津々。
和真と良い相性じゃないかと思ってしまう。オタクとオタクで。お互いに知ってることも多いだろうし話が合うこと間違い無し。
今度和真に紹介しようかな。ここまで趣味の合う女友達だったら和真、喜んで俺のことを神と言うかもしれない。
ってそんなこと悠長に考えてる暇なかったんだった! 春野さんをどうにかしないと!
「ごめん、春野さん! すぐに着替えて退くから」
これ以上春野さんの好感度を下げてはいけない。俺はサッと制服に着替えて一足先にホールへと出ていった。
◆◆◆
「美吹チャン、私が川上クンと仲良くしてるのにちょっとモヤっとシチャッタ?」
シャーロの質問にドキッとしてしまった。って違う違う! なんでそんな質問にドキッとしてるの。
「そんなんじゃないよ。ただ早く着替えたかっただけ」
「フーン」
そう言ってシャーロは私の方をジロジロと眺める。なんていうかその目つきは私の中まで見透かしているようで。
むず痒くなった私は着替えることを理由にシャーロとの会話を無理やり終えたのだった。
(ほんと最近の私、変だ。どうしてこんなになってしまうの?)
控室の個室で着替えながら私は考える。控室はクーラーが良く効いていて暑くなった頭を冷やすにはちょうど良い。
(別に川上くんのことは気になってないって、そう結論付けたばかりじゃない。いくらあんなことがあったとしてもそんなことないんだから)
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