第13話 一緒に帰宅

「上がります。お疲れ様です。


「私も時間なので上がります。お疲れ様でした」


 午後9時。今日のバイトはようやく終了だ。今日もお客さんが多くて疲れたが、今からビッグイベントがある。


 そう。春野さんと一緒に帰ることができるのだ!


 今日はこのために頑張ったと言っても過言ではない。休憩中に菊池さんの相手が大変だったがそれも乗り越えた。


「春野さんおつかれ様」


「うん。お疲れ様。もう疲れたよ」


 控え室で春野さんに話しかける。それにこうして返してくれる。春野さんとかなり普通に話せるようになったのがすごく嬉しい。


「川上くん先に着替えて良いよ」


「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて」


 サッと着替えて更衣室を空ける。


「なら駐輪場で待ってるね」


「うん。私も早く行くから」


 俺は先にお店を出て裏の駐輪場へ向かう。もし、今誰かに俺の顔を見られたらやばいことになっていただろう。それくらい顔がニヤけているのが自分でも分かる。


 だって、さっきのはまるで恋人のやり取りみたいじゃん! やばいやばい。ドキドキしてきた。


 上手く話せるかな。ここから家までだいたい15分。ただ黙って気まずい雰囲気にはしたくない。


「お待たせ。それじゃあ帰ろうか」


 私服に着替えた春野さん登場。バイトの制服をキッチリ着ている姿も良いが、私服姿もとても可愛い。つまり全部可愛いのだからすごいよな。


 春野さんに続いて俺も自転車を漕ぐ。車通りも少ないこの時間は、道が自分だけのような気がして漕いでいて心地良い。まして横に春野さんがいるのだから最高だ。


「ふぁー。涼しくて気持ちいいね」


 横春野さんが髪を靡かせながら俺にそう言ってくる。今はポニーテールではなく下ろしているためすごく絵になるように靡いていた。


「昼間は暑いけど今は涼しい。それで春野さん、大学の勉強はどう?」


「私はちゃんとやってるよ。GPA3.5以上にするのが目標なの」


「3.5以上!?」


 驚きのあまり大きな声を出してしまった。しかし、それくらいのことを春野さんは言ったのだ。


 GPAとは大学での成績を5段階評価し、単位当たりの平均値のことだ。大学ではテストなどをして60点以上で合格。単位認定になるのだが、90点以上で4、80以上点で3、70以上点で2、60以上点で1でGPAを出す。



 これが研究室に将来入る際の指標になったり、就職の際に使われたりするのだが、3.5はめっちゃ高い。


 学科に数人程度と先生も言っていたため春野さんの目標の高さが窺える。


「これは意地でもクリアしたいの。私はこれくらいやれるんだってお父さんに見せつけてやるんだから」


「そ、そうなんだ」


 たぶんお父さんとの間に何かあったんだろう。こういうところはあまり干渉するべきところではないよな。春野さんの勉強は応援するけど。


「でもそれだけ勉強もしてバイトもガンガン入って身体持つの? 一人暮らしってだけでも大変なところあるのに」


 俺と同じようなバイト三昧の日々。それにしプラスして勉強まで頑張るとかすごすぎる。


「大丈夫。大丈夫じゃなくても頑張らないといけないの」


 ここまで春野さんを頑張らせる存在であるお父さん。一体どんな人なのだろう。


「なら、俺も春野さんに負けないくらい勉強も頑張ろう」


 講義は真面目に聞いているが、復習はそこまでできていない。自分の好きな人がここまで頑張っているのだから俺も頑張りたい。


「川上くん私のライバルってことだね。二人で頑張ろう」


 この時の春野さんの「二人で」という言葉。これがさらに俺のやる気を引き出す。


 俺は春野さんに認めて貰えるくらいに勉強頑張ろうと心に誓った。

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