第61話 パスタ

「いらっしゃいませ。お二人様でございますね。かしこまりました。こちらへご案内いたします」


 制服をピシッと着こなしたウェイトレスさんが俺たちを席まで案内してくれた。


 途中、キッチンの前を横切ったがなんだか一流のシェフって感じの人たちが揃ってる。お客さんの質も高い。


 そしてウェイトレスさんたちがどんな仕事をしているのか見てしまうのはバイトを始めて見方が変わったからだろう。


「颯太くん颯太くん」


 席に着いたところで美吹が俺にすら聞こえるか聞こえないかの声量で話しかけてきた。


「やっぱり私たちのバイト先とは雰囲気が違うねぇ。でも、私的にやっぱり米屋で働くのが良いかも。颯太くんいるし」


 美吹も俺と同じようなことを思っていたみたいだ。もはや職業病みたいな感じかもしれない。


「俺も米屋の方がしっくりくるかも。でもそうだなぁ、将来は美吹と同じところに就職したいな。せっかく同じ学部なんだし」


「それ、すっごく良さそう。それなら一緒に住めるね」


「えっ?」


「えっ?」


 美吹、それは飛躍しすぎじゃないか? すごく最高な生活になることは間違いないだろうけれど、早過ぎないかな?


「美吹……」


「颯太くん……そんな将来にしたいね……」


「失礼します、メニューでございます」


「ひゃっ!」


 俺たちが見つめ合っていると急にウェイトレスさんがメニュー表を持ってきてくれた。こんなところを見られていたなんて、かなり気まずい。


「あ、失礼しました……ご注意お決まりになりましたら、こちらのボタンでお呼びください」


 ウェイトレスさんがそそくさとバックヤードの方に戻っていく。そして姿が見えなくなったところで美吹と頭を抱えてしまった。穴があったら入りたとはまさにこのことだ。


「美吹……ちょっと俺たち人前では抑えた方が良いかもしれないな」


「そうかもね。私もちょっと浮かれすぎてた。颯汰くんが私に嬉しいことたくさんしてくれるから……」


 そう言って恥ずかしそうに微笑む美吹はさっき俺たちが言った抑えるということを一瞬で忘れたように俺の心臓をさらにバクバクさせる。その表情は破壊力が強過ぎる。


「と、とりあえず何食べるか決めよっか」


 心を落ち着かせるためにもメニューに目線を落とす。まず見るはたまたま開いたところにある、クリームパスタ欄。


「どれも美味しそうだな。美吹どんなのを……って」


 美吹が凝視しているところはまさかのクリームパスタの欄。そして、その目はまさに「喰う者の目」だ。


「美吹、まさかクリームパスタ大好き?」


「えっ? ま、まぁそうだね。颯汰くんの次くらいに好きかも」


 自分で言うのも何だけどそれはかなりトップなのでは? 


 そして俺たちが選んだのはもちろんクリームパスタ一択だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る