第48話 誓う

「菊池さんまだ帰ってこないけど、大丈夫かな?」


 そろそろ休憩時間が終わってしまうというのに、希空ちゃんはまだ戻ってこない。


 川上くんは本当に家の用事で希空ちゃんが帰ったと思っているみたい。この鈍感さん。


 私には分かった。希空ちゃん、川上くんのこと好きだったんだと。僅かな表情の変化を私は見逃さなかった。


 でも私が何かを言う権利はない。希空ちゃんの好きな人を奪った私が何を言うというのだろう。


 しかし、希空ちゃんに川上くんを渡すつもりは絶対にない。これだけは譲れない。


 もしかしたら、これで希空ちゃんと仲良く出来なくなるかも知れない。それでも私は……私を好きになってくれた川上くんを選ぶ。


「流石にちょっと心配だな。家に電話かけてみようか」


 米屋経由で電話を掛けることも可能。心配そうな川上くんが受話器に手を伸ばした時だった。


「お、遅れてすみませんっ!」


 控え室に響き渡った希空ちゃんの元気な声。そしてこちらへ急いで希空ちゃんがやってくる。


「ご迷惑をおかけしました! 少し用事がゴタゴタしてしまいまして……菊池希空ここから頑張ります!」


 ビシッと敬礼して場を和ませながら更衣室へ行く希空ちゃん。たぶん無理しているんだろうと思う。でも私は気づかないふりをしてホールへと出て行った。


「菊池さん来てくれて良かったね。もう1時間くらいで夜のピークになるから助かった」


「ねぇ川上くん。私、絶対……絶対に川上くんを幸せにしてみせるから。私、誓うよ」


「えっっ!? あ、うん。ありがとう。本当に嬉しいよ」


 川上くんは職場でこんなことをいう意味をたぶん分かっていないと思う。それでも言いたかった。


 私は希空ちゃんの分まで川上くんを幸せにする。大好きな川上くんをもっともっと愛すると決めた。

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