第63話 自撮り
「ふぅ、食べた食べた。パスタもだけど最後のデザートも美味しかったよー」
食事を堪能した俺たちはすっかり暗くなった空を見上げながら夕食の感想を言い合っていた。
通りにはスーツ姿のサラリーマンや俺たちと同じようにデートなのか、手を繋ぐカップルたちがちらほら。サラリーマンの方、日曜日のお仕事お疲れ様です。
「美吹の方のパスタも美味しかったなぁ。でも、スープに染みたパスタ新しくて良かった」
「颯汰くんの方のパイ、美味しすぎたよ。次来たら私、これにする」
なぜお互いの注文した料理の感想まで言えるのかというと、つまり……うんそういうことだ。深くは探らないで欲しい。
さて、これからどうしようか。とは言ってももう夜も更けてきた。お酒も俺たちは飲めないし、行くところもそうそうない。
それに初めてのデートだ。この辺りで帰るのも聡明だと思う。
「どこで写真撮る?」
ただ、美吹のしたいことはしっかりとして帰らないといけない。そしてこれは俺のしたいことでもある。
「駅前に噴水があるんだって。夜になったらライトアップされてるらしいから綺麗だと思うよ」
初めて知ったな。あの駅からは直接水族館に来たから駅前がどうなってるのか知らなかった。
来た道を戻って駅前に来るとそこには美吹が言ったように規模の大きい噴水が見えた。噴水の水飛沫がライトに照らされて眩しく輝いている。
「わぁ! すごいよ颯汰くん! 写真で見た時より綺麗!」
はしゃぐように水際までいく美吹と噴水の水飛沫がマッチして幻想的な雰囲気が周りに漂う。
もはや俺はカメラのフレームに入らない方がいいとか思ってしまう。美吹だけの方が写真写りが良いはずだ。
カシャ
美吹に気づかれないようにシャッターを切る。画面に映る彼女は何気ないいつもの優しい表情で水面を眺めていた。
撮るよと言っていたらこの表情は得られなかっただろう。この自然な表情の美吹の写真。ちょっと他の時も撮りたいな。
今度、こっそり撮っていこうか。いや、盗撮じゃないよ? うん。思い出作り。
「颯汰くん! ほらほらこっち来て!」
両手で手招きされては仕方ない。美吹の写真を撮るのはまた今度にしよう。
美吹の方によると美吹は嬉しそうにカメラを起動させ、少し不慣れな感じでインカメラにした。なんかこういうところが美吹っぽい。
「じ、じゃあ撮りまーす」
スタンダードに美吹が右手を大きく伸ばして2人の顔がフレームに入るようにする。しかし、なかなか上手く撮れない。
「うーんと、もう少し颯汰くんの方に寄れば良いのかな」
すすすっとお互いの顔がフレームに収まるように美吹が寄ってくる。肩が当たりそうになるどころか、ほっぺたが付きそうなくらいに寄ってくるものだからたまらない。
美吹は気付いていないのか。写真を撮ることに夢中で気付いてなさそう。
「よ、よーしこんな感じかな。じゃあ颯汰くん笑って」
美吹が笑顔を見せるのに合わせて俺も心の底から笑顔をつくる。
「はい、チーズ」
撮った写真に映る俺はたぶん知っている中で1番良い笑顔で、美吹の横にいた。
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