第53話 歌うよ

「はい、2人で。時間は……3時間でお願いします」


「かしこまりました。それではお二階の27号室をご利用下さい。ドリンクバーはお二階にもございます。それではごゆっくりどうぞ」


 店員さんの丁寧な接客を受けて俺たちは指定された部屋へと向かう。所々部屋から聞こえてくる歌声は、上手い人だったりノリに乗りまくってる感じだったりと千差万別。


 今、超流行りの曲を熱唱している部屋を通り過ぎると俺たちの部屋に到着。電気をつけて荷物を置く。


「わぁ! こんな感じになってるんだ。やっぱり音大きいね。あっ、マイクだ! こっちで曲を選曲するんだ。早く早くっ! 歌おっ!」


「そ、そうだね。曲選ぶからちょっと待って。うーん何にしようかな」


 タッチパネルを操作して曲を選ぼうとする。まず、最初は有名な曲が良いだろう。と、いうことでアーティストをタップ。頭文字を一文字打ち込んだら、出てきた出てきた。


 流石だなと思っていると横に人の気配が。もちろんこの部屋にいるのは俺と春野さんしかいない訳で。


「ちょっと近いかな春野さん。俺が選んだら渡すから待ってて。もうすぐだから」


「私、やり方分からないからこうして川上くんが操作してるところみてたいの」


「そんなことしなくても簡単だから大丈夫だよ」


「大丈夫。そういうことにしてくっつきたいだけだから」


 さては春野さん、俺にまともに歌わせる気ないな? 俺を照れさせてしまう作戦みたいだ。


 そういうことなら俺も負けていられない。点数が不安定な曲ではなくて俺の十八番を一発目から披露することにしよう。


 さっき表示されていたアーティストから戻って別の名前をパパッと入力。そして曲を選んだらイントロが流れてくる。


 あるアニメのオープニングで和真たちみたいな人なら絶対分かるだろう曲。流石に春野さんは知らないだろう。そして、そんな知らない曲を初っ端から選んですみません。


 序盤からノリノリの曲でイントロが特に俺は好きだ。そして大きく息を吸い込んで歌い出す。


 初めは春野さんに見られてることにかなり恥ずかしさを感じていたが、サビの部分までくると曲に夢中になって完全にその世界に入り込んでしまっていた。


「わぁ川上くん上手だね。すごいすごい90点超えてるよ! それにしても歌ってる川上くん生き生きしててかっこよかったよ」


 ま、まさかここまで褒められるとは思ってなかった。かっこよかったって言ってもらったの初めてだ。めちゃめちゃ嬉しい。


 ただ次は春野さんも分かるような曲を歌おう。二人で盛り上がりたいからね。


 そして次は春野さんが歌う番だ。


「ちょっと緊張するよ。下手くそでも笑わないでね?」


 恥ずかしそうに春野さんは言いながらスッと席を立つ。これで歌う状態は万全。


 スピーカーからは春野さんが歌う曲のイントロが流れてきた。

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