第52話 カラオケ

「じゃあなー。またどっか遊びに行こうぜ。俺はコミケがあるからあの日辺り以外ならいつでも」


「分かった。バイト休みの日とかまた遊びに行こう」


 そして俺たちはお店の前で別れることにした。ここからは俺と春野さん。和真と佐野さんは別方向だからだ。


 今から和真の家でアニメ見るとか言っていたけれど、絶対二人付き合ってるよな。肩と肩がくっつきそうな程近い距離で駅の方に歩いて行ってるし。家で変なことしなければいいんだけど。


 人混みに紛れて和真たちが見えなくなったらここからは俺と春野さんの二人きり。そして今週の日曜日にはデートが待っている。


 よくよく考えるとデートの時に着ていく服が全くない。これは由々しき事態だ。いつも大学に着ていく服だと特別感がない。明日はバイト夜だけだしどこか服屋さんに行くか。


「ねぇ川上くん。これからどうしよっか」


 まだ時間は9時を回ったくらい。夜はまだまだこれからと言えばそうだが、可愛い女の子を夜に連れ出すのはいかがなものか。


「俺はそろそろ帰ったほうがいいんじゃないかと思う」


「えぇ。いやだー。もっと一緒にいたい。そうだよ。せっかく夏休みになったんだから、ずっと一緒にいるくらいがいいな」


 駄々を捏ねる春野さんも可愛いと思うが、これはどうしたらいいんだろう。今から遊びにいけるような場所もあまりない。


 どうしたものかと考えていると一つの案が思い付いた。春野さんがあまり行ったことがない場所で行きたいと言っていたピッタリの場所。


「そうだね。俺も春野さんと居たいってことは同じだし、それならカラオケ行ってみる? 駅と反対方向にたまに行くところがあるんだ」


 さっき食事中に春野さん、カラオケ行きたいって言ってたし。もし行くならさっき佐野さんが提案してくれた時に乗っておけば良かった。ただ2人きりでカラオケというのもなかなかいいものがある。


「私初めてだけど大丈夫かな。上手く歌えるか分からないけど、川上くんとなら行きたい」


「川上くんとなら」という言い方が俺をドキドキさせる。無意識のうちに春野さんは嬉しいことを言ってくれる。


「なら行こうか」


 カラオケが終わったらさらに夜も更けて人通りも少なくなるだろう。何かあった時は俺が守らないと。


 そんなことはないとは思うが気合を入れて春野さんをエスコートする。行く所はチェーン店のカラオケ店で料金も安いところが魅力だ。


「さ、最初は川上くんが歌ってね。どんな感じなのか知りたいし。あわわっ。何歌おうかな!」


 俺の隣で子どもみたいにはしゃぐのをみて誘って良かったと思う。俺も楽しみになって来た。

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