第41話 いただきます 

「いただきます」


 両手を合わせて食材と作ってくれた人に感謝する。


「どうぞどうぞ。召し上がれ」


 俺の目の前に並んだ料理。出来立てをアピールするように湯気が立ち込める。


 春野さんが作ってくれたのは麻婆豆腐。そしてキャベツの千切りの上にシーチキントッピングのサラダ。


 麻婆豆腐も豆腐を入れるだけのやつじゃなく、豚ひき肉を炒めて豆板醤などで味をつけた本格的な物だ。


 春野さんは簡単だよって言っていたけど、これはお店で出て来そうなレベルの見た目。美味しそう。


 スプーンで掬ってついに麻婆豆腐を口に入れる。


「……」


「ど、どうかな? 自信はあるんだけど、お口に合った?」


 春野さんは料理がどうかすごく気になるようで、ずっと俺から目を離さない。俺もすぐに感想を言いたい。


 でも手が止まらない。感想を言う暇もないくらいに手が次々と麻婆豆腐を掬って口元へ持ってくる。


 お皿の中が三分の一くらいなくなったところでようやく手が止まった。ここで改めて春野さんの方を見る。


「どうかなどうかな?」


 もう言わなくても春野さんは分かっているだろう。でも、直接聞きたいのだと思う。


「すっごく美味しいよ。今まで食べた中で一番」


 一番美味しかった麻婆豆腐は、高校の修学旅行で行った横浜中華街のお店で食べたやつ。あの時は感動した。


 ただ、記録更新。今目の前にある麻婆豆腐が一番美味しい。


「隠し味に愛情たっぷり入れたから」


 俺の感想に満足したのか嬉しそうに恥ずかしげもなくそんなことを言う。たっぷり入れたら隠し味ではないのでは? とか思ってしまう。


 そして「愛情」という言葉を聞いてから心拍は上がるし、少し熱くなって来た気がする。これは愛情とか言われてドキドキしたわけじゃない。豆板醤とかが効いてるのだ。


「あーんとかしてみる?」


 悪戯っぽくスプーンをこちらに向けてくる。春野さんとの食事は心臓が休まる暇もない。


「そ、それはまたの機会に。今は落ち着いて味わいたいから」


 あーんなんてされたらもう味なんて分からなくなりそう。これじゃ春野さんを味わうことになる。


「ふふふっ。そっか。なら次の機会を楽しみにしてるから。それにしても今日のは良い出来。やっぱり実際に川上くんが居てくれるからかな?」


「そ、それは俺には分かりません」


 恥ずかしさを紛らわすように俺はまた麻婆豆腐に手を付けた。




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