第25話 ぷいっ
「あの先輩、美吹さんと何かあったんですか?」
「なぜにそう思う?」
平日の今日は何故かお客さんが少なく閑古鳥が鳴いているような状況だ。ただこれは業績が悪いわけでもない。本当に偶然今日はお客さんが来ないだけ。たぶん土日はめっちゃお客さん来るだろう。
なんだかんだで1週間に来るお客さんの量はあんまり変わらないと俺は思う。土日は覚悟しとかないとな。
しかし、今覚悟しないといけないのは土日の忙しさではない。あと数時間後のことの方に決まっている。
それを考えるとドキドキしてくる。こんなことならお客さん多くて忙しい方が良かった。そっちの方が何も考えず仕事に集中できるから。
「ぱーい? 先輩? 私の話聞いてます?」
「なんの話だっけ?」
「もうっ、全然聞いてくれてないじゃないですか」
ほっぺをぷくぅと膨らませて抗議してくる菊池さん。なんかこの姿は地元にいる妹みたいだな。あいつはもっと子供っぽいか。
「なんの話だったっけ?」
「もう。そこからですか? 美吹さんと何かあったんですかっていう質問です」
「なっ、何にもないですっ……よ?」
「先輩分かりやすいですね。そんなの何かあったと言ってるようなものです。教えてくださいよ〜。何があったんです?」
ぐいぐい聞いてくるけど今答えることは出来ない。てか近くに春野さんいるんだから聞こええるよな?
「なら美吹さんに聞いてみます。美吹さーん、先輩と何かあったんですか?」
「何にもないよね春野さん!」
これ以上菊池さんが何かする前に何にもないことにしておきたい。春野さんもそうだろう。すぐにそうだと同意されるはず。
ぷいっ
なんか思いっきり顔逸らされたんだけどぉぉぉ!? これ好感度めっちゃ下がったってことでは?
それどころか俺を避けるようにキッチンへ洗い物を取りに行ってしまった。これには俺もどうしたら良いか分からずその場に立ち尽くすだけだった。
「これはちょっとやそっとのことじゃ無さそうですね。これ以上の詮索はやめておきます。でもお2人がこんなだとホールが回らなくなりますから出来るだけ早く仲直りしてくださいね」
「善処します」
そしてそのまままともに春野さんと目も合わせることなく俺のシフトは終了した。春野さんは今日はラストの日なのであと1時間仕事しなければならない。
制服から私服に着替え米屋を後にする。駐輪場で自分の自転車の籠に荷物を置いたら……
春野さんの仕事が終わるまでここで待つのみ。あと1時間ほどで俺の運命が決まる。
「春野さんもここで待ってくれてたのか」
思ったより暗くて落ち着かない。俺がこんなところにいたら不審者扱いされないか?
「あー緊張する。ドキドキっていうよりもう緊張でお腹痛い」
そして何かするわけでもなく春野さんの仕事が終わるのを待つのだった。
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