第11話 後輩が強い

「本当にどうしてくれるんだよ」


「いやーすみません。まさかあんなになるとは思わなかったんですよ」


 カウンター席に並んで食事をとる。諸悪の根源である菊池さんは全然悪びれることなく、野菜炒めをパクパク食べている。


 クソッ美味しそうに食べてるな! こっちなんてあの時の説明で働いているとき以上に疲れたというのに。


「まぁ良いじゃないですか。誤解は解けたんですし」


「良くないけどね」


 唐揚げを頬張りながら返答する。やっぱり唐揚げ美味しい。すごくジューシーだ。


「それで先輩」


 グイッとこちらに身を乗り出す菊池さん。いや、近い近い! そんなことしても絶対唐揚げはあげない。特唐揚げなので大きな唐揚げが7個あってもだ。


「恋バナしましょう」


「は?」


「だから恋バナですよ。先輩彼女さんいるんでしょう? いろいろ聞きたいんですよ! なかなか話す機会無かったじゃないですか。今、絶好のチャンスな訳です!」


 得意げに言ってくる。てっきり唐揚げを狙ってるのかと思っていた。しかし、実はそれ以上のことをこの娘は言ってきたのだ。


 こんなことになるなら先に唐揚げをあげて先手を打っておいた方が良かった。いや、まだ間に合うかもしれない。一縷の望みに掛けてみよう。


「菊池さん、ここは唐揚げを一つあげるからこの話はやめない?」


 さっきは春野さんに誤解を招くような発言をして俺を困らせた菊池さんだが、この娘も人の心があるはず。


 そして俺の期待通りに俺の賄賂の唐揚げを受け取った。素晴らしい! 菊池さんは分かってくれると思っていた。


 俺の唐揚げを食べ終わった菊池さんは満足そうな顔に。そしてこう発言した。


「それじゃあ恋バナしましょうか」


「は?」


 俺は耳を疑った。まさか一人暮らしでサボり過ぎて耳掃除を怠った? それで耳が機能していないとか?


 いやいや。昨日もしっかりしたはず。じゃあなんで「恋バナしましょう」という言葉が聞こえてくるのだろう。


 さっき唐揚げをあげることで恋バナの話は終わったのだ。聞き間違いを期待して菊池さんにもう一度聞いてみるが同じ言葉が返ってきた。


「菊池さん。さっき唐揚げあげたよね」


「はい。しっかり頂きましたよ。でもお願いします! 言ったじゃないですか。私、女子校だって。全然恋バナとかないんですもん。乙女の栄養分の恋愛が不足し過ぎてるんです」


「それなら俺から唐揚げもらう必要なかったよね」


「欲しかったので」


「……」


「冗談ですって! そんな反応しないでください! ほら、私の野菜炒めちゃんと分けますから! 等価交換です」


 菊池さんのペースについていけない。仕事中はすごい真面目な感じなのにオフになるとこんな感じになるのか。


 この菊池さん要注意人物だな。



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