第30話 デレデレな人たち

「よーっす、颯汰。暑いなぁ。もう夏だもんな。夏……そう夏といえば夏アニメ! あと少しで放送開始だぜ。面白そうなやつ多かったし楽しみだな!」


「朝っぱらからそのテンションについていけないんだが……」


 いつものように和真と待ち合わせしていたのだが、テンションが高すぎる。そして相変わらずのオタクっぷり。ここまで自分の好きなものを推せるのもある意味すごいことだ。


 今度家に行ってみたいものだ。想像を超えるような部屋なんだろうな。


「てか、今月の給料ほぼグッズに持っていかれたんだけど。今月もやし生活確定だわ」


「それはアホだ。俺は知らんぞ」


 バイト代は自分で稼いだお金だし、好きに使っていいってことも分かるけど、流石にやり過ぎだろ。もやし生活とかただでさえスタイルの良い和真がガリガリになること間違いなし。


 でも給料か。確かにバイトばっかりしている俺は他の友達よりかなり給料は多い。しかし、使う場面があまりなく貯金してばっかりだった。


 せっかく春野さんと付き合い始めたんだから、デートとか誘いたい。この時のために貯めていたといっても過言ではない。


 春野さんとデートか。そんなの絶対楽しいに決まってるだろ! たまには土日バイト休んでも良いよな?


 どこに行こうかな。ショッピングモールとか映画とか海も良い。誘ったら来てくれるかな?


「おーい颯汰。ニヤけてキモい顔になってるぞ。夏アニメのヒロイン可愛い子多いからってそう興奮するな」


「ちっ、違うに決まってるだろ!? 変なこというなよな」


「じゃあなんでそんなニヤけてだんだよ。ここまでニヤけてるのは珍しいぞ」


 言えない。春野さんとのデートを想像していただなんて。だいたい付き合っていることを言っても良いのだろうか。春野さんは言われたくないかも知れないし、今度聞いてみよう。


「おいっ、あれ見ろ春野さんだけど顔が……」


 和真が指差す先には愛しの春野さんの姿が。大学内のコンビニで友達と飲み物を買っているみたいだ。今日暑いもんな。水分補給大切。


 それよりも驚いたのは春野さんの顔。いつもの落ち着いた雰囲気はひとつもなく、顔がニヤけっぱなし。友達の人も不思議そうに見ていた。


 春野さん全然隠せてない! これじゃあ何かありましたって言ってるようなものじゃん。


 そんな春野さんを尻目に俺たちは講義室へ向かった。


 ◆◆◆



 今日の講義室はざわついていた。理由はもちろん春野さんだ。何があったのかという話題でいっぱい。


 周りでは男女共に彼氏ができたんじゃなかなどと言っているのが聞こえる。春野さんは友達に囲まれてそのことについて聞かれている真っ最中みたいだ。


 まずい。すごくまずい。こんな状況じゃ連絡先交換なんて出来ない。早く交換したいけど、こうなったら今度でも良いか。家も近いしバイト先同じだしチャンスはたくさんある。


 チラッと春野さんの方を見てみる。やっぱり可愛い。だけど昨日とは見え方が違う。遠い目で見ていた春野さんが俺の彼女に。


 じっと見つめていたら春野さんも気づいたのか、目が合うとニコッと笑ってくれた。


 そしてそのニコニコ笑顔のまま俺の方に近づいて来る。真っ直ぐ間違いなく俺の方に向かってきているような。


 何か波乱が起こりそうな気がする……

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