第22話 告白と…

 やっぱり夜道を自転車で颯爽と走るのは気持ちが良い。疲れた身体を涼しい空気が癒やしてくれる。


 それに横には春野さんがいるのだから最高に決まってる。決まってるはずなのに……


 気まずい。めっちゃ気まずい。


 走り出してから春野さんが一言も喋ってない。言いたいことがあるというので走りながらでも話すのかと思っていたが、そんな気配は全くない。


 そして、そろそろ家に着いてしまいそうだ。チラッと横の春野さんを見てみるが、表情は硬く本当に何を考えているのか分からない。


「あ、もう着いちゃったよ春野さん」


「えっ? 本当だ。こんなに早く着いちゃうなんて。考え事してたから」


 自転車を降りると春野さんが俺の正面にやって来る。瞳はうるうるとしていて俺を映して離れない。


 俺も瞳に吸い込まれるようでその場から動けなくなる。そして何故か心臓が激しく高鳴るのを感じた。


「ねぇ川上くん。言いたいこと。伝えたいことあるって言ったよね」


「う、うん。そのためにさっきまで待っててくれたんだよね」


「そう。そのために待ってたの……じゃあ……言うね……」


 そして春野さんは大きく息を吸い込む。一本俺の方へ近寄って……胸に手を当てて口を開いた。


「私ね……川上くんが好き……」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は耳を疑った。身体がブワッと熱くなる。心が躍るというのはこういうことなのだろう。


 好きな人に告白された。俺がこれまで生きてきた中で一番嬉しい出来事だろう。大学に合格したときよりも、抽選会で二等賞を当てたときよりも遥かに嬉しくドキドキする。


「真面目なところもだし、頑張る姿勢もだし、川上くんはもう忘れちゃったかもしれないけど、私を助けてくれたこともあってね……」


 俺は春野さんの言葉を聞きながら夢見心地になっていた。あぁ。こんなに良いことって人生であるんだ。


 言葉を紡ぐ春野さんの目に涙が溜まっていく。俺は今すぐにでも俺も好きでしたと返事をしよう。


 そう思った瞬間だった。


「でも……私の恋愛ももうお終い。返事はいいから。川上くん彼女さんを大切にしてね。それじゃあおやすみなさいっ」


 クルッと後ろを向くと春野さんはそれ以上何もいうことなく駆け足で自分の部屋へと入って行ってしまった。俺はしばらく立ち尽くした後、状況を理解して膝から崩れ落ちてしまった。


 春野さんに好きだと言われて俺のしてしまっていることを完全に忘れていた。俺は春野さんに告白されたんじゃない。逆だ。好きと言われて振られたのだ。


「本当に何やってんだよ俺……」


 ここまで取り返しのつかないことになるなんて思ってなかった。春野さんにここまでさせておいて……


 家に帰る瞬間、涙が溢れ落ちたのを俺は見逃さなかった。そして肩が震えていたことも。


「俺も後悔したくない」


 最低と言って罵られるかもしれない。でも自分で蒔いた種だ。自分でどうにかするしかない。


「春野さん本当にごめん……」


 俺の謝罪は虚空へと消えていった。

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