第21話 待ってた
「金庫の中身確認してきます。小島さん、他のところお願いします」
「はーい。後ちょっと頑張ろう」
今日は小島さんとラスト。春野さんは一時間早く上がりなのでもう家について勉強か、シャワーを浴びているところだろう。俺もすぐに帰って勉強をしないと。
そのためにも大変だけどラストの仕事頑張らないといけない。後10分もあれば終わるだろう。
「お疲れ様でした」
「お疲れさま。んー疲れたっ! あ、彼氏から連絡来てる。ほんと束縛激しくてやになっちゃうよ」
そう言ってる割に小島さんの顔は嬉しそうだ。多分、お疲れさまとかそう言う感じの労いの言葉があったんだろう。
本当に束縛激しいのかもしれないけれど、本当に小島さんのことが好きだからこそなんだろうなと思える。羨ましいな。
「それにしても暑いね。動き回ったし、もうクーラー止まってるし」
「そうですね。早く着替えましょう」
早めに終わったキッチンの人を待たせているし、俺たちは急いで着替えてお店を後にした。
みんなは車だったり、家が近くで歩きだったりするので裏の駐輪場へ行くのは俺一人だ。
「ふぅ疲れた。早く帰ろっ……と?」
そこでの光景に目を疑った。仕事の疲労も吹っ飛ぶくらいの出来事だ。
「なんで春野さんが……?」
目の前にいるのは本当に春野さん? 春野さんのこと考えすぎて幻覚が見えるようになった? 告白するとか考え過ぎてしまったらしい。
「川上くんお疲れさま」
「あ、うん。お疲れさま?」
この幻覚めっちゃリアルだな。本物みたいに動くし、声なんて本人そのものだ。とにかくサッサと帰ろう。そう思って自転車に手を伸ばそうとしたところだった。
「ちょっと、私をスルーしないでっ!」
グイッと俺の手を自転車のハンドルの冷たさではない、温かい感触が俺の手を包んだ。その感触と同時に俺の心臓が跳ね上がる。
「本物の春野さん!?」
「それ、どういう意味かよく分からないけれど私は本物の春野美吹だよ」
手に感じる温もりや俺との近さによって感じる吐息。本当に春野さんが俺のために待っててくれていた。
1時間前にシフト終わってるのだから、そこからずっとこの暗い場所で待っててくれたということなのか? どうして?
「ちょっと川上くんにどうしても言いたいことがあったから。だから待ってたの。待ってる間にスマホでレポート進めてたから問題もなし!」
「いやいや問題大ありだよ!」
こんな人目につきにくい場所で1時間も待ってるなんて。可愛い女の子がこんなところにいたら悪い人に捕まる可能性だってあるのに。春野さんは自分が可愛いことと夜は危険だということをちゃんと分かって欲しい。
「明日とかだったり、またシフト終わりが同じ時でもよかったのに」
「それじゃダメなの! 今日じゃないと。今日じゃないとダメなの」
その春野さんの表情はとてつもなく真剣で。そして必死な感じがした。
「分かった。じゃあどうする?」
「とりあえず一緒に帰ろ」
春野さんはそう言うと自分の自転車に手をかける。俺もそれにならって自転車に乗った。
そして夜道を2人漕ぎ出した。
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