第20話 伝えたい
「だいたい告白なんて……川上くん彼女さんいるんだし」
私たちはまだキッチン内で喋っていた。先に働いている川上くんには申し訳ないけど、これは超大事な話の内容なので許して欲しい。
「ん〜。彼女イルからって告白しチャだめってことないよネ」
「そうかもしれないけど……」
「それデ奪えちゃったりネ」
本当、シャーロちゃんはなんてこと言うんだろう。そんな変なこと言わないで欲しいな。ほんのちょっとでも期待してしまうから。
「奪うってっ。そんなことできないよ」
二人の中に私が入っても多分びくともしないだろう。何回もそう思ってる。
こっちでは私が恋人で地元では本当の彼女さんとみたいな感じのやつだったりドロドロの恋愛劇とかをするつもりはない。
「でも今の美吹チャンもかなり際どいヨ。カノジョいる男に近寄るオンナ」
グサッ
そんな音が聞こえた気がする。見えないナイフは見事に私の心臓に刺さっていた。
「私、やっぱりそう言う風に見えるよね。どれだけ言い訳並べても、そうだもん……」
少しだけだとか、なんとかかんとか……言い訳をしても結局はそうなのだ。
「ならサッサと告白シテ玉砕しましょー。そっちの方が気持チ軽くなりマース」
「シャーロちゃん他人事だと思って! 私、もうどうしていいか分かんないよ」
でも、シャーロちゃんの言う通り、告白してスッキリ振られちゃうのもアリかもしれない。私の恋心と共に苦しい気持ちもなくなるだろう。
そして、ふと時計を見てみると川上くんがホールへ行ってかなりの時間が経っていた。いけない、いけない。川上くんだけにお仕事させちゃってる。
シャーロちゃんとこんなお話をしてすごく川上くんと顔を合わせずらいけれど気持ちを切り替えないと。ここからは仕事。私情を挟んじゃダメ。
「じゃあ私も行かないといけないから。お仕事頑張ろうね」
「美吹チャンもね。いろいろ頑張っテ」
私はキッチンを後にして川上くんのいるホールへ足を運んだ。
◆◆◆
(なんか居心地が悪い……)
春野さんが俺よりも遅れてホールへやって来た。別に遅かったことに対して何か言うつもりはない。時間にはしっかり間に合ってるし。
たださっき更衣室まではふつうに話せていたのに、今は俺からかなり離れられている気がする。
俺が春野さんの方向へ行こうとすると、春野さんが逃げていく。お客さん来てないのに、ドアの前で待ってたり、ついには今の時間しなくてもいい掃除までしたりし出す始末。
「俺。何かしたかな」
これまでのことを振り返ってみるが、これといったことが見つからない。さっきの更衣室の件?
「ただそれは違う気がするんだよなぁ」
あの時は春野さんからの好意を感じた。少なくとも嫌われていないことは確信出来る。
「告白、俺もしたい……」
もしかしたらいけるのでは? という淡い期待が浮かんでは消える。せっかく仲良くなれたのにそんなことをしてぶち壊しになる恐怖。
並み居るイケメンに靡かなかった春野さんに好きになってもらえるのかと言う現実。
そして彼女いるのに他の女の子に告白するとか最低と思われるかもしれないということ。最後のことは、ちゃんと事情を説明すれば笑って納得してもらえるかもしれない。
なら、覚悟を持って春野さんに俺の思いを伝えたい。好きだって言うことを。
振られて惨めになるかもしれないけど。もう話すことができなくなるかもしれないけど。それでも自分の思いを伝えたい。
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