第34話 行く場所は
「確かに私たちバイト三昧で空いてる日ってなかなかないもんね」
「そこなんだよ。休日に俺と春野さんが丸々出れないってなったら、お店も困るだろうし」
どこに行くか決める前に俺たちの空いている日を確認しあったのだが、やはりと言うべきか休みが重なる日が1日もなかった。
俺が日曜日にシフト入ってない日に限って春野さんが入っていたり、その逆も然り。
「なら来月かな? 来月のシフト希望表のどこか、同じ日お休み入れよう」
流石に怪しまれることもないだろう。たまたま同じ日に用事があっただけだ。うん。
「それで春野さんはどこに行きたい?」
「私、水族館行きたいな。こっちに引っ越した時、行ってみたいと思ってたの。結構大きい場所らしくて、今だとイルカのショーとかもやってるみたい」
なるほど、水族館か。水族館なら静かな雰囲気でデートにもってこいの場所だ。それにあの水族館には行ってみたかったし。
楽しみだなぁ。デート用の服とかも買っておかないと。
「電車で二駅のところだから気軽に行けるところだね。川上くんはどこか行きたいところないの?」
「俺は春野さんと居れればどこでも幸せだからなぁ。それに水族館は俺も行ってみたかったんだ」
「じゃあ決まりだね! バイトのお休みどこで取るか決めないと」
そしていつ行くかを決めたので、お家デートは終わり。しかし、たったこれだけで春野さんとお別れしたくない。せっかく一緒の空間にいるのだからもっと長く一緒にいたい。
「「あのっ!!」」
2人の声が重なった。
「川上くんお先にどうぞ」
どうぞどうぞと春野さんは言ってくれるが、まだ一緒に居たいっていうのはなかなか恥ずかしい。
こんな時、恋愛経験値が高い人はすんなりと言えるのだろう。しかし、俺はそんなことを言うのすら勇気がいるのだ。
「あ、あの……まだ春野さんと一緒にいたいんだけど……だめかな?」
恐る恐る春野さんの方を見ると待ってましたと言わんばかりの笑顔。あぁ、俺の言ったことは間違ってなかったんだ。
「そう言ってくれてすごく嬉しい。じゃあちょっと川上くんの方に行っても良いかな?」
テーブルを挟んで対面にいた春野さんがゆっくりとこちらに近づいてくる。距離が近くなればなるほど落ち着いていた心臓が激しく拍動する。
「春野さん、近いって!」
そしてついに俺の真横に春野さんが来てしまった。ふんわりとした甘い香りが俺を包む。
甘い蜜によってくるミツバチの気持ちが分かる気がするな。これはもう最高。思考回路が麻痺してしまう。
「私もこれ以上はまだドキドキして踏み込めそうにないから。横にいるだけにしとくね」
何かをするわけでもない、まったりとした空間。でも全く嫌じゃない。
そしてこのまま2人だけの時間を過ごした。
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