第65話 一緒
母さんからの電話を切って静かになった部屋。
「なんていうか……颯汰くんとお母さんて仲良いんだね」
「まぁそうだね……家族の仲はすごい良い方だと思う」
たまに変なこという時もあるけれど、父さんも母さんとも仲は良好。
「そっか……私は小学生の頃から両親とはああまり仲が良くなくて……このアパートに住んでるのも色々な理由があって。ってごめんね! 今の話は忘れて」
「いや、忘れることは出来ないよ」
俺は咄嗟に美吹の手を掴んでいた。流石に今の話を聞かなかったことには出来ない。一瞬見せた美吹の顔はひどく悲しそうだった。
「美吹、俺が帰省する時着いて来て欲しい。母さんたちは歓迎してくれるはずだから」
美吹の家族との関係の根本的な解決にはならないけれど、ほんの少しでも美吹に親としての愛情を俺の両親が注いであげることができたら。
悔しいけれどこれは俺にはどうしようも出来ない。恋人としての愛情はたくさんたくさん美吹にあげたい。ただ、やはり親としての愛情は親にしかできない。
実際はそんな大事ではないのかも知れない。それでも、美吹のために何かしたい。
「颯汰くん、ありがとう。本当は迷惑かけたくないんだけど……それでも良いかな……?」
「もちろん。長期休暇貰って一緒に行こう」
「うんっ! ありがとう!」
そのまま美吹が抱きついてくる。ただそれはイチャイチャするという感じではなく、お互いを認識するようなそんなものだった。ただ温もりを感じる。
しばらくそうしていると美吹は落ち着いたのか、ゆっくりと離して笑みを見せてくれた。良かった、少しは落ち着いてくれたのかな。
飲みの物を一口飲むとまた静寂が部屋を包み込む。なんだか微妙な空気になってしまった。
「それで今からどうする?」
このまま黙っておくのも良くないと思い美吹に話しかける。今日は夜まで一緒にいる予定ではなかったからこれからどうするかは未定だ。
「何にも考えてない……ただ一緒に居たいって気持
ちで帰りたくないって言っちゃったから……」
頬を赤らめて俯く美吹が可愛すぎる。こんなことを言ってくれる女の子だがいるだろうか。ラノベのヒロインでもここまでの娘はいなかった。
「ちょっと汗かいちゃったからシャワー浴びたいな」
「そっか。なら一回部屋戻る?」
確かに天気良かったし、空調の効いた水族館メインだったとはいえいろいろ歩けば汗もかく。そりゃ、夜になったんだしさっぱりしたいのも頷ける。
幸い、お互いの部屋の距離は30メートルくらい。一度お互いにシャワーを浴びてまた集合しても問題はない。
「お部屋に戻るのもちょっと面倒くさいし、颯汰くんのお部屋の借りても良い? もちろん颯汰くんから浴びて良いから」
「えっ? そんなに距離ないし……自分の部屋の方がいいんじゃ? 服とかも無いんだから」
「颯汰くんの借りる」
どうやら今夜の美吹はネジが外れているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます