第66話 彼シャツ
やっぱりシャワー浴びるとスッキリする。この部屋にはシャワーしかないけれど、実家にはちゃんと足を伸ばせるくらいの浴槽もある。今はその浴槽がちょっぴり恋しい。
そして今もシャワールームからは水の流れる音が聞こえる。俺はもう髪も乾かし終わっているのに何故だろう。
理由は簡単だ。美吹が使っているからそれだけ。それだけ。それだけ。それだけそれだけ。うん。
微妙に聞こえてくる機嫌の良さそうな鼻歌も別に変なことではないのだ。これは普通。ふつう……
「ってそんなわけあるかぁぁ!!」
こんなの全く普通じゃない! 別にダメなことをしているわけではないけれど、このシチュエーションは心臓にも精神に悪い。
「とりあえず心を落ち着けないと……」
素数を数えたり意味も分からないお経を調べて読んでみたり。しかし、効果は全くなし。
そうこうしているうちに美吹がシャワールームから出てきてしまった。まだ俺は全然落ち着けてないというのに!
「颯汰くんシャワーありがとう。うーん。スッキリしたぁ」
湯上がりの顔は少し火照っていて、湿った髪などが妙に色っぽい。そして極め付けは
「颯汰くんの服やっぱり少し大きいね」
これだ。俗に言う彼シャツというもの。単純に美吹の着る服がなかったから貸しただけ。
ただ破壊力がやばすぎた。いつも見慣れた自分のシャツのはずなのに美吹が着ただけで見知らぬものになってしまう。
やはりというべきか、サイズの大きい服を着ているためダボついており美吹の華奢な感じが強調されている。
それが何というか、すごいグッとくる。なるほど。これは世のカップルがしたくなるわけだ。俺も美吹を直視できない。
お風呂上がり、彼シャツこの組み合わせはをもろに受けた俺は美吹の前に完敗だった。
俺は逃げるように準備しておいた一冊のラノベに目を通す。内容は全く入ってこないけれどこれで美吹も自分のことをしてくれるだろう。
申し訳ないけれどこれも可愛すぎるのが問題。俺が落ち着いたらちゃんと美吹といろいろ話そう。
「何読んでるのー?」
「っっっ!」
俺をそっとしてくれない美吹。ほっぺた同士がくっつきそうなくらいの距離まで俺にくっついてきた。
それと同時にフワッと甘い匂いが鼻腔をくすぐる。それはもちろん美吹からだ。不思議だな、今日は多分同じシャンプーを使ったはずなのにこんなに甘い匂いがするなんて。
「ねぇねぇ。何読んでるのー? それ読み終わったら構ってー」
なんとか耐えている俺の理性を褒めて欲しい。これは断じてヘタレによるものではない。理性によるものだ。
「分かった分かったからちょっと離れて!」
しぶしぶながら俺から離れてくれた。しかしまだドキドキと美吹が残していった甘い香りが残っている。
これ、大丈夫かな? 少しの不安を覚える俺であった。
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