第67話 おやすみ

 程なくして俺はラノベを読むのをやめた。別に読み切ったからではない。ある程度心臓が落ち着いたからだ。


 ラノベを本棚に戻して美吹の方を見ると嬉しそうにニコッと笑ってくれる。待ってましたと言わんばかりの表情。


「颯汰くん眠くなっちゃった」


 もう時間は夜の11時。ラストまでバイトがある日は今から帰るという時間で、いつもなら全然起きているのだが確かに今日は俺も眠くなってきた。


 それにしてもさっきまで元気だった美吹だがやっぱり女の子というべきか、もう眠そうな顔になっている。


「それなら美吹がベッド使っていいよ。シーツもこまめに洗ってるし変な臭いはしないと思うから」


 大丈夫なはず。これで臭いからやっぱり自分の部屋で寝るねとか言われたら俺はもう立ち直れない。


 そして俺は適当にベッドの側に横になれば良いだろう。カーペットもう敷いてあってフローリングダイレクトではないので一晩くらいなら全然大丈夫。


 誰かがこの部屋で泊まることを想定してなかったからこんなことになってしまったし、いちおう毛布くらいは買っておいても良いかもしれない。


「それはダメだよ。この部屋は颯汰くんのだし颯汰くんがベッドで寝ないと」


「女の子をこんな場所に寝かせられないよ。まして大切な彼女なんだから」


「ありがとう。颯汰くんのそういう優しいところすごく好き。でも私が無理言ったんだし、私がこっちで寝るよ」


「いやいやいやいや。それはダメだって」


「颯汰くんこそ!」


 お互い全く譲らず軽く口論になってしまう。どちらともがお互いを思ってる故引けないという感じだった。


 決着は付かず、しかし疲れたということで一度休戦になった。


「これ、決着つかないと思わない?」


「だって美吹が譲らないから」


「そうだっ! こうなったらさ」


 そして美吹が世紀の大発明をしたかのような得意げな顔で俺に提案を持ちかけようとしてくる。この表情ならお互い納得の案が出たのかもしれない。期待して美吹の話を聞こう。


「一緒にこのベッドで寝たら良いんだよ! なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう」


「いや何言ってんの!?」


 一緒に寝るとかそんなのやばすぎるだろ。眠すぎて頭のネジがさらに吹っ飛んでしまったのだろうか。


「でもこれしかないよ! WIN WINな関係ってこと!」


「確かにちょっと良いなと思ったけど……あっ」


 言ってから気づいたが時すでに遅し。美吹は俺の発言を見逃すはずもなく、してやったりの顔でつんつんと脇腹を突いてくる。


「ほらー颯汰くんもそう思ってくれてるってことじゃん。ほらほら一緒に寝よう?」


 ぱんぱんと布団を軽く叩いて俺を誘ってくる。何故だろう。俺の部屋なのに完全に美吹に主導権がある。


 眠気もかなり襲ってくる。もうここは美吹の言うようにしたほうが良いのではないか。甘い蜜に寄ってくるミツバチのように俺もフラフラと美吹の方へ。


「やっと来てくれたっ。これでやっと寝れるね」


 布団に入るとすでに入っている美吹の温もりによって少し温められており心地よい。


 1人用の布団に2人はやはり無茶があるというべきか、かなり美吹の方にくっつかないと俺が落ちてしまう。


「颯汰くんもっとこっちに寄って。まだそれじゃあ落ちちゃうかもだから」


「それだと美吹が狭いだろ?」


「むしろ私はもっとくっついて欲しいからウェルカムだよ。ほらほら颯汰くんもっとこっち」


 もはや俺に理性は残されていないのかそのまま美吹の方に出来るだけ寄ってしまう。


「よし、じゃあおやすみ颯汰くん。今日はいろいろありがとう。大好きっ」


 それに満足したのか最後の最後に俺を悶絶させて美吹は目を閉じた。

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