第76話 涙と
「颯汰くん、今なんて……?」
「一緒に暮らそうって言ったんだ。美吹のそんな顔されたら居ても立っても居られないよ。俺、バイトもっと頑張るからさ。だから……一緒に暮らしてください」
つい数分前まで賑やかだった食卓が嘘のように静まり返る。人生最大の告白。美吹に告白した時、人生で一番のイベントだったと思ったけれど、それを超えてしまった。
関係を深めようとすればするほど言葉の重さ、責任が大きくなることを実感する。プロポーズする人がどれだけ覚悟を決めてその言葉を発するのかなんだか、分かった気がする。
その人のことが大好きだからそこ出来るのだ。
両親が見ている中でこんなことを言うなんて俺も思ってもみなかった。二人も何も言わず、美吹の動向を見守る。
美吹は俺から目を離さない。瞬きすらしていないのではと思わせるほど、目を見開いて瞳に俺を写す。
両親はそっとリビングから出て行ってくれた。俺たちのことを考慮してのことだろう。両親の目がなくなったことで気兼ねなく美吹の真横についた。
「いいのかな、颯汰くん。大学に入ってから……ううん。颯汰くんと出会ってから私、幸せなことばっかりで。今も颯汰くんが私に幸せをくれて。颯汰くんにしてもらってばっかりで私何もしてない」
「そんなことない。いつだって美吹が俺に幸せをくれてたよ。それが嬉しくってさ。俺の方こそ美吹にいつもしてもらってばっかりだから。いや、これは平行線になりそうだな。それで……美吹の返事を聞かせてくれるかな……?」
俺の問いに美吹は一度目を瞑り、一度大きく息を吸う。そして大きく目を開く。その目には涙が浮かんでおり、それは一筋の光となって落ちていった。
しかし、その涙を気にすることなく美吹は口を開いた。
「はいっ」
短い返事だけれど美吹の思いは十分に伝わった。付き合っている時とは全く違う覚悟を持って、これから美吹と暮らしていこうと誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます