第75話 決意

「颯汰くん、私と同棲したくない?」


 不安そうに俺に問うてくる。父さん、母さんまで俺のことをじっと見てきた。試されているみたいだ。


「俺だって同棲したいけど……そうなると責任も大きくなるし、バイトも頑張らないといけない。大学一年でまだまだ未熟な俺が美吹を幸せに出来るか……」


 理想と現実。大好きな人とは出来ることならずっと一緒にいたい。理性との戦いもありそうだけれど。


「ただ……頑張るから来年から同棲して欲しいな」


 さっきの美吹の不安そうな顔を見てしまったらグダグダ考えることは無理だった。1番に考えないといけないのは、美吹の笑顔。


 いけない。大切なことを忘れるところだった。責任とかなんとかなんて後回し。そこは気合でどうにかする。


「分かってないなぁ颯汰くんは。そんな一人だけ頑張るとか責任負うとか言っちゃダメなんだよ? 私だって頑張る。颯汰くんを幸せにしたいもん。だからさ、そんなに気を張らないで良いんだよ」


「そんなものなのかな」


「うん。そんなものだよ」


 美吹にそう言われるとスッと気持ちが楽になった。来年からは一緒に暮らすのか……最高としか言えないな。


「そうと決まったら無駄遣いは出来ないね。よし、そうと決まったら予定が合えば颯汰くんの部屋に作りに行くね。二人分一気に料理した方が電気代もかからないし、食材も効率良く出来るから。少しずつ二人で頑張っていこうね」


 それってもう同棲開始してるのと同じじゃない? そんな事をふと思ったが、美吹も楽しそうにしているし、俺も美吹と少しでも長く居られるならそっちの方が良い。


「美吹ちゃんのご両親もちゃんと言わないといけないわね。どんどん話が進んじゃったけど大丈夫かしら」


「私の親は、私のことをどうとも思っていないので大丈夫です。なので私の今のお部屋の契約更新の時が来たらすぐ解約して颯汰くんと一緒の部屋にします」


 さっきまでの楽しそうな声音とは打って変わって美吹の淡々とした言葉に俺の両親は目を丸くしていた。


 悲しそうな表情もなく、ただ事実を述べるだけのような感じ。そんな姿をみてズキリと胸が痛む。


 前回はすごく悲しそうな顔をしていたけれど、今はそれすらない。しかし、それは割り切れたとか気にしてないとかそういう類ではなくて。


 そんな美吹の姿をみて俺は無意識のうちに口が開いていた。


「美吹、もうすぐにでも同棲しよう。美吹のその寂しさは俺が全力でカバーする。もう一瞬たりとも寂しい思いはさせない。だから……一緒に暮らそう」

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