第17話 質問責め

「おいおいおい! さっきのはなんだよ!」


「春野さんとすごい仲良いじゃないか! いつの間にそんな仲良くなってるんだよ」


 講義が終わってすぐ、俺は周りを男どもに囲まれてしまった。春野さんも女子に呼ばれたようで横にいない。


 次の講義も部屋が同じなのでまた、春野さんとは横並びになるだろう。幸せだが、今の状況は全く嬉しくない。


 横の和真というと、さっきの講義の時間から一回たりとも起きることなく爆睡を決めこんでいた。大学は自己責任なので起こされることもないが、少しは寝ない努力をしろと思う。


 そしてさっき起きたかと思うと、男どもに囲まれた俺を見て「おつ」とだけ言ってまた寝てしまった。それによりノート見せてとお願いしても見せないことが確定した。


「春野さんと川上に接点なんてないはずだろ? 何がどうなってるんだ!」


 喋ったことない人からも追及される。春野さんの影響力は凄まじいことを実感した。やっぱり男子からの人気がすごい。


 それにしてもどうしよう。素直にバイト先で同じだというのもアリなのかもしれないが、それは黙っていよう。


 春野さんのバイト先っていうことは知られてはいけない。個人情報は大切。


 いや、違うな。春野さんが俺と一緒に働いている。みんなが知らない春野さんの表情を知ってる。それを誰かに邪魔されたくなかったのだ。


 いずれ誰かに知られるだろうが、自分から言う必要はない。春野さんが働いているからという理由でバイトに来る人はまぁ居ないだろうが、可能性はある。


「実験のグループが同じだからさ。それでちょっと接点があったんだよ。同じグループの和真はこんなだろ? だから俺に相談があったみたいなんだよ。全然そういう関係じゃないから」


 横の和真にみんなの目線がいく。そして全会一致で「あぁ」という納得へ。実際に今日は実験での結果の発表があったのもあって、それ以上言ってくる人はいなかった。実験の結果を単純にいうだけなので、相談することなどないけれど。


 とにかく和真はちょっと感謝だ。やっぱり今回のノートはお礼として見せてあげようと思う。


 と、和真ではない方の横をみるとあからさまに不機嫌そうな春野さんの顔。


 男子からの猛攻を凌いでホッとしていたのも束の間。なんでこんな俺に試練が続いてくるんだ。


「春野さん……友達とのおしゃべりはもう良いの?」


「うん。それで、さっきのことだけど。私たち、何にもない関係だなんて寂しいよ」


 小さな声でそういう春野さんに俺は心臓が止まりそうになってしまった。その顔は本当に寂しそうで、まるで関係ないと俺に言われたのが本気で嫌だったと思わせるようだった。


「ごめん。ただ他のみんなに知られたくなかったから」


「そうだった。私が家のこととかお願いしたんだった」


 そして俺の耳元で俺にしか聞こえないくらいの声で言ってくる。


「私たちだけの秘密だもんね」


「ふぁい」


 春野さんがやばすぎる。蕩けさせられて返事が変になってしまった。  


 本当に俺はどうしたら良いのだろう。





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