第16話 接近、美吹さん
「おは和真」
「あー。だぁー」
月曜日。眠い目を擦りながらなんとか大学へ。昨日は春野さんのことを考えすぎて全然寝ることが出来なかった。
そしてこの初夏の太陽が寝不足にキツい。大学内はクーラーが付いているからサッサと入りたいものだ。
「なんだ和真その顔は」
俺よりも悪そうな顔をして駐輪場で俺を待っていた和真。薄ら汗をかいている。まさか熱中症?
「昨日、アニメ一気観しちゃってな。徹夜なんだわ。面白いのが悪い。ただ……まじ、今日死ぬ……」
「心配して損した」
「いや、心配しろ」
本当に熱中症にでもなっていたかもと心配したのに、アニメ観過ぎだったとは。てか、それならちゃんと寝ろ。次観たいのは分かるけど我慢も必要だろう。
「さっさと講義室行くぞ。それでちょっとでも寝てろ」
ヨボヨボの和真と講義室に入る。もうちらほら席に座っている人がいる。俺たちも座ると同じような体勢で睡眠へ。
あと10分は寝ていられる。講義の時は流石に起きていないと。横の和真は講義って何? と言わんばかりにもう爆睡していた。
俺も寝ようとしていたその時だった。
「おはよう川上くん。横の席良いかな?」
俺は飛び起きた。たぶん俺の首が今までで一番早く動いた気がする。
そして声の主で誰かはわかっているが、一応姿を確認しておく。やはり、春野さんだった。
「は、春野さん……どうしてここに?」
いつもは友達の女子と一緒にいるはずなのに。俺のところに来る意味が分からない。
「ちょっとした気分転換?」
ますます意味が分からない。周りもざわざわし出す。クーラーが付いているはずなのに汗が滴り落ちる。
春野さんはそんな周囲を一切気にすることなく、俺の横に腰を下ろす。そしてカバンから講義の資料を取り出した。つまり、本当に俺の横で講義を聞くっていうことだ。
講義は始まったが、たまに来る視線が気になって集中できない。いや、出来ないのは視線のせいではない。横に春野さんがいるせいだ。
春野さんはこちらのことを気にすることなく講義内容をメモしていく。俺は全然話が入ってこない。
チラッと横を盗み見ると、春野さんの可愛らしい横顔が目に入る。バイト中は全然見ることが出来なかったが、春野さん、まつ毛長いんだ。
「ん? 川上くん、私何かついてる?」
「いっ、いや! 何も! あの、えーとさっき教授がなんて言ったのかよく聞こえなくて、あはは」
「そこは、血液のpHは7.35から7.45で……」
グイッとこちらに近づくと小さな声で俺に教えてくれる。近い近い近い! って後ろの視線が痛い!
後講義は50分。そしてこの後、質問責めにされたのはいうよしもないだろう。
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