第15話 帰宅
「着いちゃったね」
早いものでもうアパートに到着してしまった。もう春野さんとはお別れだ。別に永遠の別れとかでもないのだからサッと。スマートにバイバイって言えば良い。
「春野さんっ」
でも俺にはそれが出来なかった。女々しいなと思ってしまうが、春野さんとまだ離れたくなかった。必死に話題を繋ごうと言葉を発しようとした時。
「明日もたしか同じ時間にシフト終わるよね。また一緒に帰ろう。楽しみにしてるから。じゃあ、おやすみなさい」
そう言うと自分の部屋へと向かっていった。「おやすみなさい」と返事することもできず、俺の前には電灯の灯りだけが寂しく光っている。
でも俺の心はそんな電灯とは違って最高にキラキラ光り輝いていた。そしてふらふらと手すりの方へ。足はもうガクガクだが、なんとか手すりに掴まって座り込まないようにする。
そして何度か深呼吸して心を落ち着ける。心臓は未だうるさいが少し落ち着いてきた。
「春野さん可愛すぎだろ……」
一言。今日はこれに尽きるだろう。あのニコリと微笑んだ顔。そして別れ際の言葉。
「あんなのやばいって」
今ここが自分の部屋だったらゴロゴロと転がり回っていたかもしれない。俺の心にクリティカルヒットだった。
「はぁ。俺も部屋に入ろう」
明日が楽しみで仕方ない。でも少しだけ今日の講義の復習をして寝よう。春野さんも今から勉強頑張るんだろうから。
◆◆◆
「私ったらぁ〜」
部屋に戻ってちゃんと鍵をかけたことを確認した私は、その場にへたり込むように座り込んでしまった。
せめてもうちょっと頑張ってちゃんとしたところに座ればいいのに。でも、そんな余裕は私にはなかった。
「こんなデレデレしちゃってもうイヤだ……」
夜で薄暗くて良かった。私のニヤニヤデレデレな顔はたぶんちゃんと見られていないだろう。見られていたらもうバイト行かない。
今日はもう勉強する気分になれない。川上くんライバルだねとか言っちゃっだけど今日は無理!
「てかなんなの最後の言葉! 好きだってことバレたレベルじゃない!?」
思い出しただけで恥ずかしい。
「シャワー浴びて寝よう」
こんな時はサッサと寝た方がいい。疲れている時に色々考えてもいいことはないだろうから。
火照ったほっぺを叩きながら私はなんとかその場から立って、お風呂の準備をするのだった。
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