第8話 私の気持ちside美吹
「なんでこんなことになったの……?」
誰もいない部屋の中でぽつりとこぼす。バイトでの疲労感はもう消えてしまった。
それよりもだ。どうして私と川上くんが一緒に帰ることになったの。
いや、川上くんの言葉は分かる。夜の道が危ないことも分かる。私のことを心配してくれているんだ。
「これは川上くん的には浮気にはならない?」
川上くんは地元に彼女がいるらしい。私と一緒に帰ることは問題ないのだろうか。
浮気のラインは人それぞれ。連絡を取り合っていたらなのか、それともプライベートで一緒に遊んだり食事に行ったりしたらなのか。
私は恋愛というものに疎いしよくわからないけれど、もし自分に彼氏がいたら他の女の子と話しているだけでも嫌かもしれない。
そういうことを考えるとあんまり川上くんと親しくするのはいけないのかも。
それは……寂しいな。
私が冷たくしても優しくしてくれる人で。私もこの人ならもしかしたら、恋愛を出来る人なんじゃないかと思わせる人で。
でもその人にはもう心に決めた人がいるみたいだった。
そして話を聞く限り二人は長い付き合いで私が入り込む隙はない。そして私自身も浮気にはどんな理由があっても反対。
「川上くんどっちかというとグイグイくるようなタイプなんだよね」
私がかなり素っ気なくしても、川上くんは私にバイト先とかでもしっかりと挨拶してくれるし、こうして一緒に帰る提案までしてくれた。
これまでも私に下心満載で話しかけてくる人は何人かいたけれど、川上くんからはそういうのを感じないし、今日とか一緒に最後まで仕事したけれど楽しいって気持ちさえあった。
下心がないのは当たり前か。だって彼には彼女さんがいるのだから。
「私の最初で最後の恋かな」
そして、私も決めた。少なくともバイト中と一緒に帰る時はいつもより積極的に話しかけよう。
別に川上くんを取るわけじゃない。ただほんのちょっとだけ、バイト中の短い間だけ私の最初で最後の恋を楽しませて欲しい。
それにしても私はどうして川上くんに好意を抱くことになったんだろう。
それはやっぱり彼が誠実だからだろう。バイト先で一番真面目に仕事をしているし、接客などを見ていても彼の人の良さが分かる。
沢山の人が来て、とても疲れている時でも彼の笑顔は変わらない。お客さんからしたら当たり前に見えるんだろうけどそれがどれだけすごいことか。
疲れているときのみんなはパントリーでは死んだ顔をしてる。もうぐったりって感じ。
小島さんとかと話しているのを聞くけど、彼女さんにもとても優しくしてる。小島さんの彼氏は嫉妬深くて拘束が激しいとかってよく嘆いているけど、川上くんは違う。
「私ってそんなに彼のこと見てたんだ」
バイト中の時間だけだけど私は思っていた以上に川上くんのことを見ていた。
「はうっ」
そう考えると何故か心臓がバクバク激しくなる。これってなに?
私が感じたことのない感情。心臓はバクバクしてるけど、なんだか心地いい。
「あぁこれが恋なのかな」
友達とかが言ってたり、小さい頃友達から借りた少女漫画とかのヒロインが言っていたのに、この感じは似ている。
叶うことはないけれど。
そう、現実を思い出した瞬間に胸をギュッと締め付けるような感覚が襲う。
それでもこの気持ちは私だけのものなんだ。
この大切な感情を大切にしよう。
「明日、川上くんシフト入ってたよね」
いつも何気なく過ごすけれど明日のバイトが少しだけ楽しみになった。
皆さま読んで頂きありがとうございます。こんなにも早くフォロワー様300名突破です! 沢山の★もありがとうございます! 本当に嬉しくて踊ってしまいました笑 ★まだだよ〜という人は是非是非お願いします。
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