第78話 目が覚めたら

「颯汰くんおはよー」


 美吹が俺の身体を優しく揺すってくる。美吹が起こしてくれるのは嬉しいけど、もう少し寝ていたい。


 たぶんまだ七時くらいだろう。今日はバイトも大学もないのだから、後一時間くらい寝させて欲しい。


「颯汰くーん。もう九時だよー。そろそろ起きないと。みんな颯汰くん起きるの待ってるよー」


 美吹はなんと言った? もう九時? いやいや。今、俺の感覚では全然時間経った感じはしないぞ。


 まだ寝ていたいけれど、美吹が起こしてくれているし起きるとしよう。


「んー。美吹おはよ……う?」


 目を開けるとそこには美吹がいた。起こしに来てくれているから美吹がいるのは当然だ。ただそのポジションに問題があった。


 何故か俺に跨っている。何故なのかと不思議に思った人もいるのではないだろうか。俺もそう思う。起きて目を開くとこの光景。普通の生活を送っていたらまず経験しないだろう。


「美吹さんや。何をしておるので?」


「おやおや颯汰さん。ようやっとお目覚めですか。起きないならキスして起こすところでしたよ」


 いや、それ立場が逆なんだよ。普通は王子様のキスでお姫様が起きるんだよ。冷静にツッコミを入れてしまった。


「そういえば美吹とキスしたことないなぁ……」


「そうだね。いっそここでしちゃう?」


 俺のほっぺたに手を添えて俺に唇を寄せてくる。このまましてしまうのもありかもしれない。俺たちは恋人なのだし、近いうちに同棲する仲だ。


「美吹ストップ」


 それでも。それでも俺は美吹にストップをかけた。美吹は不服そうな顔はしなかった。分かってたと言わんばかりの表情で顔を遠ざけていく。


「初めてだもんね。もうちょっとロマンチックにしたいよね」


「そうだけど、美吹本気でしそうな雰囲気あったらから。朝から心臓に悪いって」


「確かに颯汰くんがストップって言わなかったら、してたかもね」


 悪戯っぽく笑うと美吹は俺から降りた。腰の辺りにはまだ美吹の温もりが残っている。ほんの少しの名残惜しさを感じる。


「着替えたら降りて来てね。もう朝ごはんは出来てるから」


「分かった」


 俺が返事すると美吹はスタスタと機嫌の良さそうな足跡で降りていった。


「キス……か。初めてならやっぱりデート中とかになるのかな」


 もし俺たちが既にキスしていたなら、先程のキスも受け入れただろう。ただまだ、俺たちはファーストキスを済ませていない。


 この帰省中に知る人ぞ知る場所に連れて行く予定なのでその時がいいかなと思う。そこは星がすごく綺麗に見える場所で。


 よしっ。頑張らないといけないな。二人にとって最高の思い出に出来るように。

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