第37話 ピークのあと

「ふぅ。なんとかピークは過ぎ去ったね……」


「ちょっと水分摂ってきます」


 クーラーが効いているはずのホールに、汗びっしょりのクルーが4人。みんな疲れ切った顔をしている。厨房の方を覗くとこちらもグッタリとした人多数。


 今日は過去最高レベルでの売り上げだったらしい。こういう仕事をしている人は分かるかも知れないが、小さめのリーズナブルな飲食店でお昼の売り上げが20万。


 戦慄した方もいらっしゃるのではないだろうか。これだけの数を捌いた俺たちは勇者と言っても過言ではないだろう。


 もう夜は無理だぞ。ヘトヘト。なんでこんな日に限ってロングシフトなんだ……夜もお客さんたくさん来たら死んでしまうかも。


「川上くんお疲れさま、まだ終わってないけどね。はい、アイスココアだけど飲む?」


「ありがとう、いただきます」


 春野さんが差し入れにと、くれたアイスココア。米屋はそういうところも自由度が高いので、お客さんに見えないところで各自持ってきたジュースなどを飲んでもいい。


 俺は普通に水を飲もうと思ったのだけど、まさかの春野さんからの差し入れ。ただのアイスココアが神から頂戴したくらいのものに変化。


「甘くて美味しい。疲れた身体に沁みるなぁ」


「川上くんその言い方店長に似てるよ……」


「えっ?」


 遠回しにおじさんみたいだぞ、と言われてしまった。やばい。かなりショックなんだけど。まだ俺18歳なのに……


「ねぇ希空ちゃん。美吹ちゃんと川上くん仲良すぎじゃない? ダメじゃないんだけどさ」


「私も思います河本さん。さっきも思ったんですけど、最近の2人の関係を疑っています」


「川上くん、地元に彼女いるのに美吹ちゃんに浮気〜? 美吹ちゃん可愛いからってそれだめだめ」


「もし、そうだったどうします?」


 と、急に俺の真横で爆弾発言をしたのは春野さん。心臓が止まるかと思った。


 ちょっとちょっと!? 何言っちゃるてるの! 


「なーんて冗談ですよ。ただ大学で同じ学部でいろいろ交流があるうちに仲良くなっただけです。ねっ?」


 俺に向けて悪戯っぽく微笑む春野さん。その瞳には「いつか私を紹介してね」といった意味が込められている気がした。


 それにしても俺はもう今後春野さんに勝てないかもしれない。


「本当びっくりしちゃった。美吹ちゃんってそんな冗談とか言うタイプなんだね。最初のクールな感じも良いけど私は、今の方が好きだよ」


「私も今の美吹さんの方が接しやすくて好きです。今度一緒にお買い物とか行きたいです!」


 確かに最初は男子にはかなり冷たかったよなぁ。でも今は俺に笑った顔や嬉しそうな顔を見せてくれている。


 俺って幸せ者だとしみじみ思う。


 それはそうと今の暇なうちにシフト希望日を記入しておかないと。来月はテスト、それが終われば春野さんとのデートとイベントが目白押し。


 デートのためにも悪い成績は残せない。俺の夏を守るためにも頑張ろう。


 楽しそうに女子三人で喋る春野さんを見ながら俺は堅く誓った。

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