第55話 デュエット
曲が流れてくる。それに合わせて自然と体が揺れ、リズムを刻んでいく。
横にいる春野さんも同じように体が揺れている。なんだかシンクロしている感じだ。
「〜〜♪」
まずは春野さんが歌い出す。やはり綺麗な声色でこのまま聴き入ってしまいそうになるが、それはだめ。
それにしてもすごいな春野さんは。初見の曲をここまで正確に歌えるなんて。俺は音程外しそうでちょっと怖い。
ここで春野さんの歌うフレーズが終わって俺が歌う番が来る。
一呼吸置いて春野さんからのパスを受け取る。バトンは完璧に渡ってここからは俺のソロパート。
そしてそのまま春野さんとのサビに突入する。チラッと横を見ると春野さんとバッチリ目が合う。
コクンとお互いが頷いてサビへ。なんだろうこの感覚。春野さんと俺の一体感。
やばい楽しい。春野さんと俺二人で歌を作っていく感覚。そしてこの歌詞が俺たちのことを知ってるかのようなくらいピッタリハマっている。
俺が歌っている時に春野さんが俺の気持ちに相槌を打つようにコーラスを入れてくれて。春野さんが歌っている時に盛り上げるように俺が合わせる。
ラブソングのデュエットを歌っていると出てくるのがキスとか口付けという単語。デュエットに限ったものではなく、ラブソング歌っていると頻発する単語ではあるけども。
(なんかめちゃくちゃ照れるんだけど!?)
女性パートで「キスして」とか言ってそれに男性側が応えるという感じのところ。春野さんが本気でそう言ってる感じになってしまっていろいろとまずい。
もちろんそんなことはないだろう。春野さんは真面目に歌っているだけ。そんなやましい気持ちになるなんて最低だ。
横で歌ってる春野さんの唇がプルプルしてるとかそんなことは関係ない。お互いの気持ちがない状態でするのは無しだ。
だいたい童貞の俺にそこら辺をどうしたら良いのかわからない。ただ、もっと関係を深めてからだということは流石に分かる。
本当、しっかりしろよな俺。春野さんのことは絶対大切にするって決めただろ。
「川上くんおつかれさま」
「ありがとう。デュエットってこんなに良かったんだね。春野さんと一緒に歌うのすごい楽しかったよ」
「ふふふ。そうだね」
春野さんも優しい笑顔を見せてくれる。良かった。春野さんも楽しんでくれたみたいだ。
「恋愛の曲を歌ったせいか気持ちが入り過ぎちゃった。川上くんにこの気持ち届けーってね。あははっ」
春野さんがそんな純粋な気持ちを俺に向けてくれていた時に俺はなんてことを考えていたんだ。
本当に気をつけないといけないな。デュエットは最高だけど危険だ。
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