閑話 サブとモブが脇役なはずがない……。
俺達は体育の授業中だった。
本日の競技はバスケットボールだ。
俺と玄白は同じチームで、サブとモブの試合の様子を見ていた。
サブは少し背が低く、ちょこまかとした動き相手を翻弄して得点を重ね、モブはそのガッチリとしたガタイでディフェンスやリバウンドを取り続けるので相手チームとの得点差が一方的に開いていた。
「サブとモブのチームすげぇな……。相手チームは確かバスケ部の奴もいるはずなのに。」
俺が2人の試合運びに感心していると玄白がなぜか得意げに「だろ?」と答えた。
「なんで玄白が得意げになっているんだよ?それより、あいつら何者だ?この間の不良達もあいつらの事を知っていたみたいだし、あいつら自身も10人もの不良相手に気後れする事なかったみたいだったよな?」
「ああ、あいつらはもともと格闘技経験者だ。モブ太はボクシングの優勝経験者で、サブはカンフーの経験者だ。そこいらの不良相手なら数分も立たずに相手を打ちのめすだろうよ。」
いまだに得意げな顔で二人のことを自慢してくる玄白の言葉に感心する。
確かにあの二人の体つきや身のこなしを見ていたら、素人には見えなかった。だが、ふと疑問がいくつか湧いてきた。
「なぁ、なんでモブは二つ名がモブライアンなんだ?名前はモブ山モブ太なんだろ?」
「ああ、モブ太の本名はモブライアン・タロウ・藻部山なんだ。アメリカ人の親父さんと日本人のお袋さんの間に生まれたハーフなんだ。」
と言われて、俺は納得する。
どこか体つきは日本人離れしていて、純粋な日本人には見えなかった。
「そうなんだ。なら納得だけど、なんでモブ太って名前になるんだよ?」
「ああ、それな?あいつ、ハーフだってことを知られたくないからって日本人名で太郎って名前を名乗る予定だったんだけど、モブライアンを捨てられないからってモブ太にしたって話だぜ?詳しいことは知らないけど。」
……へぇ、ハーフだったんだ。変な名前だけど。
モブ太の当たり負けしないガタイの強さを見て納得してしまう。
他の生徒にぶつかっても相手を弾き飛ばしてしまう彼の体の強さが羨ましくなる。
「そうなんだ。じゃあ、サブのカンフーサッカーってどう言うことなんだ?テコンドーサッカーなら聞いたことあるけど……。」
「それ、よくないやつな?まぁ、サブ自体も昔は力が弱かったけど、サッカーを始める前にカンフーをやり出して身体能力がだいぶ上がったからなぁ〜。」
玄白は昔を思い出すようにしみじみと語る。
確かにサブの動きは素早く、流れるような身のこなしにバスケ部員の生徒も手を焼いている様子が窺える。その上、もうすぐダンクができるのではないかと思うくらいのジャンプ力を見せられると彼の身体能力の発達が見て取れる。
「ほんと、すげー奴らだな。」
「何言ってんだ、お前も十分すげぇ奴だよ。あの不良達、そこそこ喧嘩が強いってこの辺りでも有名なんだぜ?」
玄白は信じられないと言った表情でで俺を見つめてくる。
確かにこの間喧嘩した相手は喧嘩慣れはしていた気がする。
だけど、そこまで強いかと言われれば結果はご承知の通り、秒殺をしてしまった。
だから、あいつらが強いかと言われれば疑問符がついてしまう。
「お前なぁ、自分がどれだけすげぇ奴かわかっていないのか?少なくとも、普通だったら10人に囲まれて、一人でやり合おうとする人間は見たことねぇよ。」
玄白の言葉に実感が湧かないまま、サブとモブの試合が終わったので、俺たちは立ち上がり、次の試合に出る準備をする。
「……なあ。そういえば、なんでお前は腰巾着なんだ?」
ふと玄白の顔を見て、先日の不良の一人が言っていた言葉を思い出す。
玄白はサブとモブの腰巾着……。ひどい言われようだ。
「ははっ、俺は喧嘩が弱いからな!!」
腰に手を当てて威張りちらす玄白を見て呆れてしまう。
まぁ、喧嘩はしない方がそれはいいと思う。
だけど、玄白は喧嘩を煽っていたような気がするのは気のせいだろうか……。
「だけど、喧嘩は弱くても俺にはできることがあるからな……。さぁ、ゲームを始めようか!!」
「?」
玄白の言葉の意味がわからないまま、俺たちはコートに入る。
相手はサブとモブのいるチームだった。
バスケ部員をコテンパンにした二人を相手にうちのチームがどこまでやれるかはわからないが、とりあえず俺はセンターサークルへと向かう。
相手は当然モブだ。
モブの圧倒的な威圧感に少し怯むも、明鏡止水の心で挑む。
審判役の生徒がボールを上に投げると、予想通りモブが俺の上をいく。
そして、モブが弾くと相手チームの生徒がボールを取ると、俺の横をすでに走っていたサブに対してパスを出す。
……やられた!!
俺が着地しボールの行方を目で追っている間に、決まりごとのような展開と言わんがばかりの行動に俺は焦った。
が、その展開を予想していたのか、玄白は焦ることなくパスをカットすると、ゆっくりとしたドリブルでチームの落ち着きを取り戻す。
「さて、落ち着いていくぞ。」
と、言っているそばからサブがドリブルをカットしに玄白に迫る。
だが、玄白は焦ることなくバックハンドで味方にパスを送り、俺を見て顎を上へとあげる。
まるで前へ走れと言わんがばかりの指示に俺の体は自然と前へと走っていた。
味方の生徒に渡ったボールも玄白はすぐにリターンを受け、前を走って行ったもう一人の生徒へとパスを出す。
そして、その生徒の前に立ちはだかったモブがシュートブロックをしようとした瞬間にその生徒は俺に対して、下からパスが飛んでくる。
俺はそのボールを受けるとリングに向かいシュートを放ち得点を決めるだけの簡単なお仕事。
開始早々の得点にチーム内は湧き上がり、それ以降はボールが玄白へと集まる。玄白を起点にしたチームは試合を支配し、俺達もその流れに乗ることができた結果、バスケ部員を圧倒していたモブとサブのチームは俺たちのチームに完敗してしまう。
「やったな、玄白!!すげぇよ、ゲームを支配してたじゃないか!!」
悔しそうなモブとサブを尻目に俺は興奮気味に玄白に近づいて肩を叩くと、彼は得意げに笑う。
「当たり前だよ。俺がこの場を支配してたからな!!」
自信満々な彼に感心していると、彼は言葉を続ける。
「俺は腰巾着と言われているけど、周囲を動かす事に関しては誰にも負けないぜ!!」
その言葉に裏付けられた自信の一端を俺は見たような気がしたが、それは彼の本当の凄さを知る呼び水であったことを今の俺はまだ知らない。
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