第7話 クラスのギャルは俺を敵視しているはずなのに

翌日の昼休憩、教室で昼食を摂る準備をしていた俺はちらりとアイドル様の方を見ていた。


昨日の一件があったにもかかわらず、彼女は俺に話しかけくるそぶりを見せない。

何食わぬ顔で他の生徒と楽しそうに会話をしている。


アイドル様の近くでは幼馴染が本の表紙を見つめてニヤニヤしている。幼馴染の持っている本は先日、俺がサインした本で時々抱きしめては自分の世界に入り込んでいる。


その姿を見て、俺は少し気持ち悪くなったので視線を切り替える。


義妹の姿は隣にない。

トイレに行ったのかと思っていると、教室の入り口から義妹が戻ってきた。


義妹の表情はどこか浮かない顔をしていて、口元で何かぶつぶつ呟いている。

その光景に恐怖を覚えた俺は、再び視線を動かす。


その先には、昨日俺にイチャモンをつけてきた美少女、出雲さんがいた。


彼女はなぜか俺を敵視してきて、事あるごとに暴言を吐いてくる。


昨日も俺を視界に捉えた彼女の表情は嫌悪感満載で「うっわ、隠キャじゃん、キッモ!!」と、言葉を発する。


その第一声に恐怖を覚えた俺は彼女の言葉を無視する。


もちろん、彼女に腕力で負けるはずがない。

もし仲間を連れての喧嘩であったとしても、烏合の衆なら負けることはない。


だが、物事は腕力では解決しない。

女性に手をあげること自体、モラル的に良くないことは誰でも知っている。


それに喧嘩をしたところで何の問題の解決にならない事も分かっていた。

おそらく、彼女が声を上げれば俺みたいなぼっちは非がなくても悪い方に見られてしまうだろう。


その証拠に、義妹を助けた日の帰りの幼馴染の反応を思い出してみろ。人を助けた正しい行為であったにもかかわらず、彼女はその行為自体を軽蔑した。


あの時の彼女のまるでゴミでも見るような顔を思い出すと涙が出てくる。


……俺、泣くよ?泣いちゃうよ!!


涙目になりながら、結局は彼女の人望と女性特有の団結力の強さを知る俺は彼女に関わらない事を決めたのだ。


「おいおい、何見てんだよ?」

その言葉とともに伸びてきた手に俺は驚いた。


しかし、とうのギャルは視界の先で男子生徒と楽しそうに話をしていた。


「おいおい、何おどろいてんだ?」

俺を驚かせた奴の正体は玄白だった。


最近、玄白の影が薄いなぁ〜と思っていたそこのあなた。それは正しい!!

俺自体も存在を忘れかけていた。


彼は行動力がある方で、休み時間になるといろんな奴の所へ出張して行くのだ。

だから玄白は授業以外で俺に絡んでくる事はあまりない。


「陸、一緒に昼飯くわねぇか?」

爽やかなスマイルでこちらを見る玄白を見て、俺の目が眩む。


女子のトップカーストが義妹、幼馴染、アイドルとおまけのギャルであるとするならば、彼は男子のトップカーストだ。


隠キャの俺からすれば、その光で砂になり崩れてしまいそうな輝きだった。


「……他のやつはいいのか?いつも食堂だろ?」

俺が目眩に耐えながら玄白に尋ねると、彼はにっこりと笑って鞄からお弁当を出してくる。


「ああ、今日はいいんだ。弁当があるのに他の奴に付いて食堂に行くのもめんどくさいだろ?それなら陸と仲良くなりてぇしな。」

イケメンの笑顔が当社比十倍増(個人的な感想です)で話す姿に周囲に残っていた女子からは悩ましげなため息が漏れる。


……イケメンは羨ましいことで。そこ、笑顔が腐ってるよ?

俺は彼女達の桃色(?)吐息に世界の構図を知る。


俺1人では味わえなかった光景に戸惑いながら、玄白の机の方を向いて弁当を広げる。


「そういやぁ、陸は何か部活にはいんねーの?」

玄白はご飯を口にしながら部活について尋ねてくる。


「ああ。入らないつもり。バイトもあるし、やる事が多くて忙しいんだ。」


「もうバイトしてるんだ?そういえば、お前んとこって家族は?」

そう聞かれて、俺の箸が止まる。

横に義妹(他人)が居るから下手な事は言えない。


横目で義妹を見ると、他の女子と昼食を摂りながら耳をダンボにしている。


……ははっ、下手な事は言えないな。


「両親と妹が1人いるだけ。普通の家庭だよ……。」

苦笑いをしながら、詳細を省いて玄白に説明する。


「そうなん?妹がいるんだな?羨ましいぜ。」

羨ましそうな玄白を見て俺は苦笑する。


妹とはいえ義妹で、コミュニケーションすらとっていなかったら実質ひとりっ子だからだ。


「玄白はひとりっ子か?」


「ああ、ひとりっ子だ。だから兄妹のいる奴って羨ましくてな。家だと1人だからついつい誰かに話しかけてしまうんだ。」


「?」

一瞬、影を帯びた表情に変わる玄白を見て不思議に思ったが、家にはそれぞれ事情があるから詳細は聞かない。


ウチだって色々あったのだ。


「それより、陸って趣味とかあるか?ゲームとかするのか?」

話を逸らした玄白が俺に尋ねる。


「……うーん、ゲームはあまりしないなぁ。うちってあんまり余裕なかったから、ゲーム機自体を持ってないんだ。やるとしてもパソコンでオンラインゲームだけだったりする。」

俺がそういうと、クラスの片隅でガタっと言う音がする。俺は音のする方に目を向ける。

だが、何ごとも無い様子だったので再び玄白に視線を戻す。


「へぇ、パソゲーね。陸って、オタクってやつか?なんて言うゲームをしてんだよ?」

玄白のオタク発言に苦笑いをしながらお弁当をつつく。


「ガーディアン ファンタジーって言うゲームだよ。

知ってるか?」


「いいや、パソゲーは詳しく無いんだ。ガーディアン ファンタジーなぁ……。」


ガタン……


玄白がゲームのタイトルを口にすると再び机が動く音がクラス中に響く。

今度はさっきより大きな音で、俺と玄白はその音の方向に視線を向ける。


そこにはさっきまで立っていたギャルが机に何故か座っていた。


クラス中の視線に恥ずかしそうな彼女は、俺が見ていると知るや否や……。


「見んな!!オタク。キモい、死ね!!」

と言ってクラスから出て行った。


俺を含めてクラス中が呆然とするなか、玄白が

「お前、何がやったのか?」と尋ねてくるので、俺は「さぁ?」と答えた。


……ホント、何やったんだろう。俺……。

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