第8話 クラスのギャルがヤンデレ鬼嫁な訳がないはずなのに

「ただいま〜。」

誰もいない自宅に、俺の声だけが響く。


お母さんとお義父さんは仕事で今日も遅くなるようだし、義妹もクラスメイトに誘われて夕飯を食べて帰るようだ。


この前の件以来、あまり遅くまで出歩くのはおすすめしない。だが、義妹の連絡先を知っているわけでもないし、迎えに行ったとて逆に迷惑だと言われてしまいそうなので放っておく。


とりあえず手を洗い、うがいを済ませると冷蔵庫で冷えたお茶を飲む。


一息ついた俺は、部屋着に着替えると自室にペットボトルのお茶を持って引きこもる準備を始める。


小説の続きを書くか、WEB小説を読むかを悩んだ末にパソコンの電源を入れる。


起動音と共に待ち受け画面が立ち上がると、俺はネットゲーム「ガーディアン ファンタジー」のアイコンをクリックする。


しばらくロード画面が映し出されるが、その画面が切り替わると壮大な音楽と共にタイトル画面がモニターに映る。


ゲームスタートのアイコンを押すとゲームが開始され、剣と魔法の世界に誘われる。俺のアバターはとある小屋のベッドの上で寝転んでいた。


その隣では女性アバターが眠りこけっていて、起きる気配はない。


このゲームはオンラインRPGで、定額制だった。

お金のない高校生には有難い仕様のオンラインゲームなので、一昨年くらいから続けている。


そして、俺の横に寝ているアバターはモブ……ではなく俺のゲーム上の嫁、リィサだ。


このゲームの特徴としては、結婚システムがあり、配偶者はログアウトしている時はモブとして、購入した自宅で一定の行動を取るシステムになっている。


だから、一目でインしているかどうかが分かるのだ。


寝ている嫁アバターを横目に、俺は自宅から出る。

すると、壮大に広がる大地が俺の眼前に広がっていた。


「今日の目的はっと……。」

道具屋で旅の準備を始めていると、女の子冒険者がパーティを組まないか尋ねてきた。

それを俺はやんわりと断り、道具屋を後にする。


だって、嫁を待っている間に女の子冒険者とパーティを組んでいる姿をゲーム内での嫁に見られようものなら、「この浮気者!!」と殺されかねない勢いで責められるのだ。


未だに彼女いない歴=年齢のDT☆隠キャがゲーム内での嫁に殺されるという珍事に先日見舞われたばかりなのだ。


このゲームは一度死ぬと1時間はゲームにイン出来なくなるデスペナルティがあるのだ。

だから易々と死ねないし、死なない様に立ち回る。


プレイヤーキルをした人間も同様に、1時間の牢獄入りのペナルティに見舞われる。


一度、牢獄に入ってみたい人ならそのプレイをしてみてもいいとは思うが、看守モブが右往左往する姿を1時間み続ける事を強いられるのは正直辛い。


しかも両方、ゲーム画面を閉じてしまっても再開は現状維持の為ペナルティの間はずっとモニターと睨めっこだ。


悲しい過去を思い出しながら、ぼっちで冒険を始める。


魔法戦士を生業としている俺は十分にソロ狩りをする事ができる。

攻撃、防御、素早さ、魔法、器用さが平均以上で個体攻撃、個体回復などの能力には長ける。


……が、いかんせん個体能力に特化し過ぎていて余り人気のない職業でもある。


ソロ狩りをしながら時間を見ると、20時。

未だに義妹は帰ってきていないが、まぁ心配はないだろう。


理由は両親との取り決めで遅くなる時は連絡する事になっていて、両親が帰りに拾って帰る事になっているのだ。


さて、俺はというと……、そろそろ嫁がインしてくる時間だ。

彼女との取り決めで、水曜日の20時から揃ってインする事になっているのだ。


去年は互いに受験生で、息抜きにこのゲームをしながら互いに励まし合う為にインする時間を決めたのだ。


……えっ?ネカマかもしれないって?それもネトゲの醍醐味でしょ。


事実、彼女(?)には助けられて来た。

落ち込みそうな時は励まし合い、うまく行った時は共に喜び合う日々は2人の絆を深めた。


ピコン!!

ポップ音と共に、リィサがインして来た。

それに気づいた俺はあらかじめ用意していた転移魔法で自宅へと戻る。


自宅のドアを開けた俺を待ち構えていたかの様に、リィサが近づいてくる。


「リック、こんばんは!!会いたかったよぉ〜。」

甘えたような物言いで彼女は俺のアバターにハグする。


「俺も会いたかったよ、リィサ。」

俺のアバターも彼女のアバターを撫でる。


このムーブは結婚をしたプレイヤーにのみ与えられるもので、配偶者以外とはできない仕様になっている。


「くんくん……。リックから女の子の匂いがする……。」

突然、リィサは匂い出して浮気を疑う発言をする。

その言動に俺はドキッとする。


もちろん、このゲームに匂いを感知するシステムなど存在しない。ましてや、ログ解析や個別監視機能も付いているわけもない。


ただの勘としか言えないのだが、俺の背筋に一筋の冷や汗が滴り落ちる。


俺はゴクリと喉を鳴らしてキーボードに文字を打ち込む。


「まっ、まさか……。」


「へえっ……。」

一言いうと、彼女の目のハイライトが消えていく(ような感覚になる)。


「ははっ、何を言っているんだ。君のような感の良いガキは嫌いだよ……。」

その迫力に俺も負けじと至ってクールに(五臓六腑がもう凍死しています!!助けて!!)言い返す。


だが、俺の言動は彼女の火に油を注いだのか、魚のような死んだ目で魔法の詠唱を始める。


「……えっ、いや。ちょっと、待て!!嘘、冗談だから!!ねっ、俺は……何もやっていな……。」


「問答無用〜!!」

俺の話に聞く耳を持たず、彼女最大の攻撃魔法が手から放たれる。


その魔法で消し墨になった俺のキャラクターは二度目のデスペナルティを受ける。


そして、彼女もガーディアンに連行されて牢獄行き。


のちに嫁の二つ名に「ヤンデレ鬼嫁」の称号が加わったのだが、パソコンの向かい側でプレイしているヤンデレ鬼嫁がまさかのギャル、出雲理沙である事をこの時の俺はまだ知る由もなかった。







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