第63話 ギャルが俺を見ているはずがない……。

俺はリィサと名乗るクラスメイトのギャル、出雲理沙の後ろをついて行った。


彼女とはクラスで面識はあるのだが、俺を嫌っていた節があったので俺自身も敬遠していた相手だった。


それがまさか1年以上ゲームを共にし、ゲーム内では嫁として過ごしてきた相手だとは夢にも思わなかった。


しかし現に俺のゲーム内での名前を知り、自らもリィサと名乗り目の前にいるのだから尚のこと怖い。


……もしかしたらどこかで俺の情報を得て、それをネタにロクでもないことを考えているのではないかと思ってしまう。


だがそんなことをして、彼女になんの得があるのだろうか?いや、ないはずだ。


仮にリィサ本人だとしたら、どこで情報を得て、何を目的に俺を呼び出したのだろう。


オンラインゲームをしていることを秘密にして欲しいと言うことなのだろうか?


彼女のクラスでの様子や俺への態度を見る限りではゲームやアニメを嗜好しているようには見えないし、彼女がリィサだと言うことを知らない俺を呼び出して口止めをする意味もないはずだ。


ならばどうして……?


彼女の後を追いながらも、疑問符だけが湧き上がる。

しばらく歩いていると、彼女はとあるカフェに入っていく。


俺たちは店員に案内された席に陣取り、注文をすませてドリンクが届くのを待つ。飄々とした顔で注文をしていた彼女を見ていたが、何か悪いことを考えている節はないように見える。


「ねぇ、海西くん。どうして私がリックのことを知っていたか気になってるんじゃない?」

まじまじと彼女の事を見ていたのを感じたのか、彼女は俺が考えている事を口にする。


「……ああ、どうして俺がリックだって知っているんだ?」


「それはね……、あなたの部屋でゲームをしてたのを見たかからよ。ほら、初めて空ちゃんのうちへ行った時に。」


「あっ!!」

彼女の答えに俺は納得する。


幼馴染に髪を切られた時に、確かにリィサもいた。

だがそれだけで納得出来る事ではなかったが、店員が注文していたものを持ってきたので、話は途切れる。


ギャルはアイスティーを店員から受け取ると、シロップやミルクを入れてストローを口にする。

その様子を見た俺も受け取ったアイスコーヒーを同じように口にする。


「……出雲さん?」


「何?」

しばらく無言が続いた席でドリンクを口にするだけの二人に気まずくなった俺は出雲さんを呼ぶ。


ストローから口を離した彼女は、声に返事してじっと俺を見つめる。その表情はクラス3大美少女達と比べても、見劣りはしなかった。


学校での少し派手な見た目とは違い、どこか地味で大人しめの格好をするギャルの視線に恥ずかしくなって、俺は顔を逸らす。


「い、いつもは派手なのに、どうして今日は少し控えめなんだ?」

俺の疑問に彼女は目を丸くするが、すぐに表情を変える。どこか微笑んでいるようにも見える。



「……それは君が話やすくするためだよ。普段の私は苦手でしょ?」

そう話す彼女に対して、俺は控えめに頷く。


苦手も何も、これまでの言動が酷かったのだ。苦手意識を持つことに対して文句があろうか?


すると彼女は俯いてしまう。


「……ごめんなさい。入学した頃のあなたは苦手だったからひどい事言ってきたよね?」

反省の色を見せるギャルに対し、俺は静かにうなづく事しかできなかった。


決して自分が悪かった訳ではない。

しかし、一方的に悪意をぶつけられた身からすると簡単に許す事はできなかった。


「私は……自分に自信がない事はあなたもしっているでしょ?」


「……うん。」

彼女は自分の性格について話し始める。


その性格は知っていた。

長年ともにゲームをしてきたのだ。

少なくとも、彼女の性格は知っているつもりだ。


自分に自信がなく、人見知りで嫉妬深く、独占欲が強い彼女の事をゲームを通じて近くで見てきたつもりだ。


「そんな自分が嫌いだったし、中学校の間ゲームに逃げてきた自分も嫌だった。」

俯いていた彼女が急に顔を上げて俺を見つめる。


「そんな時にリック……、君に出会った。ゲームの中でだけど……。」

それからの事はわかるでしょ?と言わんがばかりの視線が俺を捉える。


俺自身も同じ時を過ごしてきたから分かる。

彼女が過ごしてきた時間も、感じてきた思いも。

だからこそ、今この場に俺は来ているのだ。


「リックが居てくれたから私は変わろうと思えたし、変わる努力をしたの。リックに会った時に恥ずかしくないと思えるように……。だけど、クラスメイトとして会ったあなたは違った。ゲームで一緒に過ごしてきた堂々としてて優しいリックではなかったの。どこか人から逃げているみたいだった。」

そう語る彼女の目つきがキツくなり、俺は俯く。


別に俺は堂々としては居ないし優しくもないが、それでも彼女の言う通りだ。人の好意、悪意から逃げ、誰の言葉も受け入れようとせずに自分とはこういうものだとたかを括っていた。


「そんな君が嫌だった……。それは中学生だった頃の自分を見ているみたいで。」


「じゃあ、どうして今日会いたいなんて言い出したんだ?ついこないだ別れようなんて言っていたのに。」

まるで自分の過去を責めるような顔をする彼女に当然の疑問をぶつける。


もちろん、嫌な過去を俺に見たのならば見ない方がいい。だが、彼女はそれをしなかった。


「それは……。」

と、何かを言いかけて黙り込む彼女の表情にはどこか迷いがある。それを俺はただ黙って話し始めるのを待つ。


「君の中にリックを見たからよ……。」


「はっ?」

彼女の話の意味がわからない。


もちろん、俺にリックを見るも何も、リックは俺なのだからそれは仕方がない。

だが、彼女にとっては違うらしい。


「君が髪を切った日、リックが近くにいた事に驚いた。それが嫌だった君だった事にもね。ただ、その日からずっと君を見ていたの……。気になって。」


髪を切って以来、よく睨まれていたような気はするが、それは気のせいではなかったようだ。ただ、それだけでは彼女の話の意図がわからない。


「……どうして?」

ついつい疑問がポロリと口に出てしまう。


「それは……、リックがずっと好きだったからよ……。」

俺の言葉を聞いたギャルは顔を真っ赤にしながら、俺を目の前にしてリックが好きだと言い出した。


その言葉に俺は驚きを隠せなかった……。



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