第62話 ギャルが嫁のはずがない……。

翌日、俺は緊張した面持ちで繁華街の駅である相手を待っていた。誰を待っていたかと言うとゲーム内での嫁こと、「リィサ」だった。


昨晩は泣き疲れて寝ようかとしたが寝付けず、何故かGFOにログインしたのだが、そこで待っていたのは何故か俺のアバターの横に仁王立ちで立つ彼女だった。


俺は驚きを隠せずに、画面の中を凝視しているとピロンという通知音が聞こえる。


彼女からのメッセージを通知する音だった。


『こんばんは……。』

何げない挨拶にも俺の思考はついていかない。


それもそのはずだ。

彼女から別れを告げられてそう日は立っていないのだ。


彼女にメッセージをどう返そうか、迷いながらキーボードを打ちこむが言葉がでない。

しばらく返信できずにもたもたしていると、再びピロンという通知音がなる。


モタついている俺に業を煮やしたのだろう。

メッセージに恐る恐る目をやる。


『あなたに一度直接会いたいんだけど、明日時間はありますか?』


「はぁ?」

その一文に呆気に取られた俺はパソコンの前でまぬけな声を上げる。


別れを切り出されたこともそうなのだが、何より急に直接会いたいと言われても住んでる場所も知らなければ連絡先すら知らない。


それなのにどうやって会おうと言うのか?


『連絡先すら知らないのにどうやって会うのさ?』

チャット画面の向こう側にいるはずの嫁に対して疑問を投げかける。するとすぐに返事は返ってくる。


『あなたの事は知っているから……。』


「ええ〜!!」

その返信をみて驚きをを通り越して恐怖を覚える。


それはそうだ。ネット上での付き合いしかない人間に急に知っていると言われて恐怖を覚えない人間がいるだろうか?いや、間違いなくいないだろう。

それなのに彼女は俺を知っていると言う。


『どうして知っている?』

恐る恐る何故知っているのかを尋ねてみると、すぐには返信がなかった。


だが、しばらくするとまた通知音が聞こえる。


『明日、会えばわかります。』

と、意味深な言葉と待ち合わせ場所と時間を指定して彼女はログアウトしてしまった。


有無を言えないほど早いログアウトと、指定された駅が自分の住む街であった事には度肝を抜いた。


個人情報が流出しているのではないかとマジで疑い、ストーカーの類いなのかとも思ってしまう。


だが彼女とはゲーム上とはいえ長い付き合いだったので多少は信頼しているから指定された場所に向かうことにしたのだ。


そして今彼女らしき人物を待っているのだが、未だに声を掛けて来そうな人間はいない。むしろ、逆ナンのようにお姉様方に声をかけられてしまう事が2回ほどあった。


待ち合わせをしている事を告げてどうにかお引き取りいただくのだが、俺のような人間に声をかけて何が楽しいんだろうと思ってしまう。


お姉様方が離れた事で、ホッと一息をつき再び周囲に目を向けると、少し離れたところに見覚えのある姿を見つける。


それはロングのワンピースを着て、こちらを仁王立ちで睨んでいるクラスメイト、出雲理沙の姿だった。


その姿を見た俺は戦慄を覚える。

……なんだろう、この既視感は?


湧き上がる疑問を胸に彼女から目を離すと、ギャルは俺を睨んだままつかつかとこちらへ向かってくる。


「何してるの?」

ギャルは不機嫌そうな声で俺に声をかけてくる。


……何故声をかけてくるんだ!?

俺の事を嫌っているはずのギャルが声をかけてきた事とその迫力に冷や汗が止まらない。


「い、いやぁ……、出雲さん。友人と待ち合わせをしているんだけど……。偶然だね。」

焦りを隠しきれない俺はたじろぎながらも待ち合わせについて答える。


「そんな事は知っているわ!!それより、私に会う前に何してたの?」


「えっ、何って……。1時間前からずっと知り合いを待っていただけ……。」

彼女の質問に戸惑いを隠せない俺は混乱のあまりに彼女の冒頭の言葉を聞き逃してしまう。


「ふ〜ん。ゲーム上とはいえ、嫁とのデートの前に逆ナンされて喜んでるようにしか見えなかったけど?」

殺気を隠さない彼女の迫力に押された俺は一歩後ずさる。


……これは逃げなければやられる!!

過去の経験則が俺にそう告げていた。


だが人生でそんな経験はした事はないし、彼女とちゃんと話す機会はなかった。なのに、なぜ……。


「えっ、今なんて言った?」

冷静になった俺は彼女の発した言葉を思い出し、彼女に聞き返す。すると、彼女ははぁ……とため息をついて、呆れたように言葉を続ける。


「だから、嫁とのデート前に逆ナンされて喜ぶ旦那を見て呆れてるの。……GFOなら即刻消し炭にしてるところだったわ……。」


「えっ、ま、まさか……。リィサ……なのか?」

その言葉に驚いた俺は彼女に震える指を指しながら尋ねる。


そのようすに表情を曇らせるギャルは不機嫌そうに頷く。


「そうよ。私はリィサ……。不快だから指差すのやめてくれない?海西陸くん……。いえ、リック」

その答えに俺は脱力して、口を大きく開く。


「えええ〜!!!!」


俺の目の前にいるクラスメイト女子が、俺を嫌っているギャル、出雲理沙がまさかゲーム上の嫁だとは夢にも思わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る