義妹や幼なじみや学園のアイドルに嫌われているはずなのに、彼女達の話は俺の噂で絶えない

第64話 ギャルが告白するはずがない……

2人の間に沈黙が流れる。

ギャルの急な告白に、俺は困惑する。

つい先日まで嫌われていた相手からの急な告白に声が出ないのは当然だろう。

その沈黙に居た堪れなくなったのか、彼女は先ほどまで真っ赤だった顔をますます紅くさせる。

「ち、ちがう！！勘違いしないで！！私はリックが好きなんであって、あんたが好きなわけじゃないんだからね！！」

……だから、俺がリックなんだって！！

慌てて言葉を訂正するギャルの言葉に対し俺は呆れながら心でツッコミを入れる。

リックはゲーム内での俺であり、ギャルの中では別の人間のはずだ。

それなのに彼女は俺に向かって告白をしてきた。

そのことは彼女にとっては意図していなかったことであろう。

「……けど、最近あなたが本当にリックなんじゃないかと思うことがあったわ。」

恥ずかしそうなギャルが声のトーンを落として話始める。

学校での俺は目立たず、人に絡まずぼっちで過ごしてきたのに、どこにリックを見たと言うのだろう。それに、彼女はリックに何を見てきたのだろう。

それがわからない。

「不良たちに絡まれたあの日、あなたが一人で不良に立ち向かう姿がリックに見ちゃった。私がいつも見る頼もしくて、優しい後ろ姿に……。」

不良たちに絡まれた時のことを引き合いに出した彼女が顔を赤らめて真剣な表情でこちらを見る。

あの出来事に関しては玄白の意図を理解せずについて行った自分が悪かったし、少なくとも彼女達を庇わなければと言う思いだけで行動しただけだった。

「別に優しくしたわけじゃないし、あれは俺が無責任について行ったことが原因だから庇うのは当然だと思う。」

「そんなの当然じゃないよ。弱い人はそんなの関係なく逃げちゃうよ。それなのにあなたは私たちの前に庇ってくれた。」

俺が自身の行為を否定すると、彼女は首を振る。

確かに正義感を振りかざしたところで力がなければ何も守れないし、力があったとしても心が強くなければ彼女達を置いて逃げてしまうだろう。

自分に力があるとは思っちゃいないが、危険な状態の彼女達を置いて逃げるほど弱くはない。

「あの日のあなたは出会ったときのリックの姿そのものだった。弱い私を助けてくれた……私を変えてくれた私の大好きな旦那様の姿そのものだったよ。」

真剣な目で俺を見つめる彼女の表情に俺は次第に自信がなくなり、顔を俯かせる。

「俺がリィサを変えるなんて、そんな力なんて俺にはないよ。」

「ううん、あの日あなたに会わなかったらもうあのゲームはやっていなかったよ。私もあの頃はひとりぼっちで過ごすことが多かったし、自信もない性格だったわ。」

昔を思い浮かべるような表情を浮かべる彼女の表情に暗い影が見える。

「だけど、あなたは今もこうやって私に付き合ってくれてる。その優しさに救われてきたし、私も変わらないといけないと思えた。それはあなたのおかげ……。」

「そんなことは……。」

と俺は言いかけて言葉を発するのをやめる。

『だから、君には……人の優しさや好意から目を逸らさないでいて欲しいの。私みたいになって欲しくないから……。』

脳裏に浮かんだのはあの人の悲しげな一言だった。

自分を見ていてくれる人の言葉を素直に受け入れることのできない自分を嗜めてくれた彼女を思い出して否定をするのを止めようとついこの間決めたばかりなのだ。

「……そっか。出雲さんは変われたんだね。」

「そう、会いたかった人のためにね……。だけど、その人は昔の私みたいな人だったから少しショックだったかな？」

残念そうに苦笑いを浮かべるギャルに俺は一つの疑問を投げかける。

「出雲さん、人って簡単に変われるものなのかな……。」

「う〜ん……簡単には無理かな？」

俺の質問に少し言葉を選びながらも、無理だと口にする。

「どうして？」

「だって、変わるって口言っても、自分がどういう人間でどう言うことが変わりたいのかわかってなかったら変われないし、それって簡単なことじゃない。変わる理由が必要なんだと思うわ。」

……確かにそうだ。俺はこれまでずっと、自分なんてこんなものだと思って過ごしてきた。

全ての環境が変わった今、自分が変わるきっかけを求めているのは事実である。

だが、変わるきっかけなんてあるのだろうか？

変わる事が難しいと話す彼女の言葉にふと疑問が浮かぶ。

「出雲さんにとって、俺って何なんでしょうか？」

ゲームの中の存在でしかなかったリィサが目の前にいる。その事が不思議で仕方がないのは事実だ。

だが、それを知り、一度は別れを切り出した彼女がこうして目の前に現れたのも理由があるはずだ。

彼女が描いたリックと俺の間にある何かを知れば少しは変われるかも知れない。

「うーん、分からないわ。リックとあなたは別の人だもん。」

少し悩みながらも、分からないと口にする彼女の言葉に愕然とする。

「けど、それを知るためにも私はここに来たの。分からないまま嫌いだと思うより、その人のことを知って嫌いになった方がいいと思うし……。」

……嫌うのが前提かい！！

彼女の言葉に呆れながらもギャルの様子をみていると、ワンピースの裾を掴んで下を俯いている。

「それに……、もしかしたらほんとに好きになるかも知れないじゃない？」

そう語る彼女の顔は真っ赤で、俺はたまらず「はぁ？」と口に出してしまう。

その声にギャルは真っ赤な顔のまま視線を上げ、上目遣いにこちらを見る。

その上気した表情はいつもの目線とは違い、どこか可愛らしく見える。

「……いや、そうは言ってもまだちゃんと話したこともないのに？」

上気している彼女にしばらく目を奪われていたが、すぐに気を取り戻して言うと、先程の上気した顔から一変し、鬼の形相に変わる。

「この一年近く、ずっと話してきたじゃない。忘れたとは言わせないよ？」

そう語るギャルの表情を見て、俺は改めて彼女がリィサだと言う事を思い出す。

「まぁそうは言っても、今のあなたは私の大っ嫌いな人種だから好きになるなんてあり得ないんだけどね！！」

悪戯っぽく笑う彼女の視線に、俺の胸が跳ね上がる。

あの人が言ったように俺のことを見てくれている人がいる。その事実からは目を背けてはいけないのかもしれない。

だがギャルの笑顔の裏側に、1人の影がダブって見えた。その悲しげな表情が……、俺の脳裏に抜けないトゲのように突き刺さってしまっていた。