義妹や幼なじみや学園のアイドルに嫌われているはずなのに、彼女達の話は俺の噂で絶えない
黒瀬 カナン(旧黒瀬 元幸 改名)
第1話 俺は義妹に嫌われているはずなのに
「海西 陸です。よろしくお願いします」
俺は新しいクラスメイトに自己紹介をする。
春から高校生になったばかりの俺は、右を見ても左を見ても知らぬ顔ばかりのクラスメイトが集まる教室に県外から来た俺は完全アウェー状態だ。
だから、この期に友人を作らないと高校3年間が黒歴史化してしまうのは目に見えている。
だが、俺は言葉数少なく自己紹介を終えると、早々と自分の席に戻る。
なぜかと言うと極度の人見知りで上がり症だった。
隣の席には女子がおり、こそこそと何かを話している声が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、海西ちゃん。海西くんと、兄弟なの?同じ名前だけど……」
「ううん、チガウヨー。今日初めて会ったの。よろしくね、海西くん!!」
海西ちゃんと呼ばれた女子が笑顔でこちらを見てくる。だが、目は笑っていない。
「……よろしく」
俺は苦笑いしながら、海西と呼ばれた女子に返事を返す。だが、その声は明らかに震えていた。
それもそのはずだ。
海西 陸と海西 空はいわゆる、義兄妹。両親の再婚で家族になったばかりの関係で、5月生まれの俺が兄で6月生まれの空が妹という事になった。
だが、その事実を義妹は嫌がったのだ。
『有り得ない!!こんな冴えない隠キャが私の兄になるなんて!!』
俺が海西家に引っ越した当日、部屋で荷解きをしている最中に乱入して放った最初の言葉だ。俺の母とお義父さんの前ではにこやかに話していたのだが、彼女は僕の風貌を嫌ったのか、2人のいないところでそう言ってきたのだ。
冴えない隠キャ。義妹が放った一言はまさに俺を表すにふさわしい言葉。眼鏡を掛けて、髪で両眼を隠す様な伸びた髪型。まさにキングオブ隠キャを地で行くのが、俺だった。
その言葉にショックを受けたが、その次の言葉で俺は撃沈した。
「あんたとは他人よ、他人!!学校が一緒だからって話しかけないでよね!!」
激しくドアを閉めて俺の部屋から出て行く義妹の様子を見て、俺は空が怖くなってしまった。だから義妹とはなるべく顔を合わさず、入学式の行われる今のいままで一言も話していなかった。
だから、不幸な事に同じクラスになってしまった事に対して学校を恨んだ。
……なんで兄妹が同じクラスになるんだよ!!
口には出せないから心の中で呟くが、それも致し方のない事だった。
なぜならこの少子化の影響で学校は女子高だったが、最近は特進クラスとして2クラスだけ、少数ではあるが男子も受け入れているのだ。
そして、成績優秀な妹も特進クラスになったので、
自動的に同じクラスになってしまうのだ。
嗚呼、少子化は高校経営にまで影響を及ぼしているのかと、半ば呆れてしまった。
「……海西、海西!!」
後ろから、誰かが俺の肩を叩く。
その方向を向くと、男子が俺の方をみている。
その顔は、ザ・イケメンって感じで人懐っこい笑顔が特徴だった。
「……誰?」
俺は肩を叩いた奴に名前を尋ねた。
すると男子は支えにしていた手を滑らせて、机の上でこける。
「おいおい、自己紹介を聞いていなかったのか?お前のすぐ後にしただろうが……」
「ごめん、聴いてなかった。」
俺がそう言うと、男子は大袈裟に天を仰ぐ。
別に聴いていなかったわけではない。
自己紹介で緊張したせいで自分の番が終わると脱力して、次のやつの声が耳に入ってこなかったのだ。
「あー、そうかい。ならもう一回教えてやるから、よく聞いとけよ。俺は玄川 玄白。男子は少ないんだ、仲良くしようぜ!!」
と、とびきりの笑顔でこちらを見ながら手を伸ばしてくる。
「よろしく……」
「よろしく!!海西は2人いるから、陸でいいよな?俺のことも、玄白って呼んでくれ!!」
俺は最大限の笑顔(未完成)で、握手をすると玄川は嬉しそうだ。
自己紹介を終えると、玄白は途端に空の方を指差す。
「陸と海西さんって親戚だったりするのか?」
「さっきのそ……海西さんの話聞いてなかったのか?初対面だよ、初対面!!」
名前を、間違えていいそうになった俺に義妹から鋭い視線が刺さる。
なので、すぐに名字呼びに直しながら玄白に説明すると、奴は俺の顔と義妹の後ろ姿を見比べる。
「だよなー。似ても似つかないもんな!!仮に遺伝子が同じって言われても疑うレベルだよな!!」
嬉しそうに話す玄白に俺はガクッと肩を落とす。
それもそのはず。
俺の容姿は前述した通り隠キャなのだが、義妹に至っては肩まで伸びた色素の薄い茶髪に、(主に胸あたりが)すらっとした細い四肢。そして、誰もが羨むぱっちりとした二重の瞳は校内でも上位に入るくらいの可愛らしさだ。
……一応、義理とはいえ兄妹なんだが。
俺が恨めしそうに玄白を睨む横で、義妹は小さく笑ってやがる。
……兄妹だって、バラしてやろうか!!
腹の中で煮えくりかえる感情を押し殺しながら、俺は性格の悪い義妹を睨みつける。
だが、ここで義妹の機嫌を損ねても、家に帰ったら厄介な事になるのは目に見えているので、怒りをグッと飲み込む。
LHRが終わり、今日の学校は終わり。
クラス中が、親睦会を兼ねてカラオケに行くという。
「なあ、陸はこの後どうするんだ?親睦会、行くだろ?」
「いや、今日は用事があっていけないんだ。」
俺は玄白の提案を断った。
何しろこの後は道場で空手の練習が待ち構えているのだ。
僕は小学校の頃から空手を始めていてるのだが、ここに引っ越してきてからというもの、師範が少し厳しい人で時間がある時は練習しろと口うるさい。
それを鵜呑みにするのもどうかとも思うが、クラスの連中と遊びに行くのも気が乗らないので今日も学校終わりに練習をする事にしたのだ。
義妹はクラスメイトの親睦会に参加するようだが、俺が参加しない事を聞くとこちらを睨んでいた。その視線に構うことなく俺は玄白に別れを告げ教室から出ていった。
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