第2話 俺は義妹を助けたはずなのに

「ありがとうございました!!」

2時間の練習を終えた僕は師範に挨拶をして道場を後にする。


激しい稽古のため、もう汗だくで気持ちが悪いから早く海西家に帰りシャワーを浴びたかった。何より、ワックスでオールバックにした髪が気持ち悪くて、早く帰って髪を流したかったから、足早に家路を急いだ。


幸いに、道着は師範の奥さんのご好意で道場で洗濯してくれるので、荷物は学校の荷物だけで済む。


「ちょっ、やめてください……。」

帰る途中、聴き慣れた声が聞こえてきた。


立ち止まり、声の方向を向いてみると義妹が3人の男に囲まれている。


男は「いいじゃん、俺たちと付き合えよ」と強引に義妹の腕を引く。

それに対して義妹は必死に抵抗しているが、腕力では勝てないようだ。


……なんてベタな展開。

と、ラノベのような状況に呆れてため息をつく。


だが嫌われているとはいえ、義妹だ。

この人が傷付けばお義父さんや母さんがショックを受けるし、俺も寝覚がわるい。


はぁ……と俺はため息をつくと再び髪をかきあげる。俺にとっての戦闘態勢だ。


ちなみに眼鏡はつけていない。

元々そこまで視力が悪くないのだが、乱視がひどいので普段は掛けるようにしている。むしろ、掛けなければ目つきが悪いと人に怖がられてしまうのだ。


「止めろよな。」

俺は男と義妹の間に割り込むと、義妹の手を掴んでいる男の腕を掴む。


「なんだ、てめえ!!」

俺に腕を掴まれた男は俺を睨みつけて威嚇してくる。だが、さほど恐怖は感じない。


特に喧嘩慣れをしている連中には見えなかったし、逆に普段から一緒に生活をしている義妹の視線の方が怖いくらいだった。


「えっ?」と義妹は驚いていたが、俺はその声を無視して男3人の間に仁王立ちする。


「ちょっと。あんた危ないわよ、逃げて!!」

義妹は威嚇してくる男3人に向かってメンチを切る俺に向かって慌てて逃げるように催促する。


……あんたって、こんな時でも他人のフリですか?


義妹の言葉にショックを受けながらも、俺はチンピラの腕を離して横目で義妹を見ると、「物陰にでも、隠れてな」と、逃げるよう促す。


「かっこいいねぇ〜。ヒーロー気取りかよ?」

一人の男が大振りな拳で俺に殴りかかってくる。


その拳を難なく避けると、男たちは激昂して3人で襲いかかってきた。


「危ない!!」

後ろの方で義妹の叫び声が聞こえ、ガッと言う音が辺りに響く。


義妹はその音に目を逸らしたが、「えっ?」と言う声を聞いてこちらを振り向いていた。


俺は1人の拳をわざと受けていたのだ。


これでもし警察に通報されても正当防衛を主張できるからだ。

義妹もおそらくはこの様子を動画で撮影しているだろうが、万一のためだ。


一発殴られた俺はニヤっと笑い、逆襲が始まる。

まずは殴ってきた男の拳を額で受け止めると、カウンターと言わんばかりに右の拳を突き出す。加減をした正拳突きだ。


その拳を受けた男は一発で地にひれ伏す。

右から迫る男の姿を捉えると相手が殴ってくる寸前に肩の力を抜いて拳を躱す。


そして、男の懐に潜り込んだ瞬間に右足に力を込め、肩を相手にぶつける。

すると、男は己の推進力と俺の攻撃が見事に衝突し、後ろへと吹っ飛ぶ。


最後の反対にいた男もこちらに飛び込んでくる前に左足で軽く蹴りを入れる。

ジャストミートした感覚はなかったが、素人相手ならばこのくらいでも充分なダメージになる。


だが、俺はなんともいえないショックを受けた。

何を隠そう、俺は足が短かったのだ。

だから、伸ばした足がジャストミートしないのだ。


俺に蹴られた男は戦意喪失したのか、最初に襲ってきてきた男を叩き起こすと、「覚えてやがれ!!」と、これまたラノベの様な捨て台詞を吐き、伸びてしまったもう1人の男を連れてにげていった。


……無様な。

俺はその走り去る後ろ姿を眺めながら、一息つく。


すると、突如後ろから「あの……」と言う声が聞こえてくる。そうだ、義妹を忘れてた……。


後ろを振り返ると義妹は心配そうに俺を見ている。


「あの、大丈夫……?」


「ああ、大丈夫だ。君は?」


「大丈夫……」

義妹の言葉を最後に、2人は言葉を失った。


家でも学校でも距離を置かれているから会話が続かない。いや、ここでも話しかけてくるなと言うことか?などと考えると、おのずと俺は自宅の方へと歩いて行く。


義妹は何か言いたげな様子はあったが、それ以上は追いかけてくることはなかった。

用事があれば家で話しかけてくるだろう。


俺は足早に自宅に戻る。

義妹を助けた後も一悶着があったのだが、疲れたから思い出したくないので、今は語らない。


練習と一悶着で疲れた身体をシャワーで洗い流す。

すると義妹が帰ってきたのか、玄関のドアが開く。


普段ならすぐに自室に戻っていくはずなのに、今日に限って戻る気配はない。


風呂から上がった俺は用意していたルームウェアに着替えてキッチンに向かい、冷蔵庫から麦茶を出しながら義妹の様子を見る。


リビングでは、テーブルに突っ伏した義妹がぼーっと何かを考えている様だった。


「空、今日は……。」


「ちょっと黙って!!」

助けた義妹から辛辣な言葉が返ってくる。


俺はただ、今日の事を聞いて励まそうとしただけなのに、この塩対応は凹む。


助けられても態度は変えないよ、と言う気持ちの表れかと思うと、義妹のことがますます怖くなりそれ以上言葉を交わすことなく俺は自室に戻っていった。


だがその態度の裏で、義妹の頭の中を知る由もなかった。


「……はぁ。あの人、かっこよかったなぁ。名前聞けば良かった。けど、同じ学校みたいだし、また会えるよね。」


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