第3話 幼馴染にいつの間にか嫌われていたはずなのに
うちのクラスには3人の美少女がいる。
学内の男子が勝手にランク付したのだが、校内にいる女子全てを網羅しているはずもない眉唾物のランキングだ。
が、確かにうちのクラスの女子は美少女揃いだと思う。
その筆頭の1人がうちの義妹、海西空であることに身内である俺も特に異存はない。
そして今日、俺はもう1人の美少女に声をかけられた。
「あの……。海西くんって昔この辺りに住んでなかった?」
もじもじと緊張しながら話しかけてくるのはクラス3大美少女の1人、美内明日香だった。
活発そうなショートヘアに長い睫毛、そして天真爛漫に笑うその笑顔に義妹とは違う可愛らしさを持っているので、クラス3大美少女に祭り上げられていた。
そんな彼女が俺に話しかけてきたのだから、俺の胸はドキッとした。
……いや、別の意味で。
「う、うん。住んでたけど、君は?」
彼女に話しかけられて、冷や汗を垂らしながら返事をする俺に、彼女は笑顔で話を続ける。
「美内明日香です。覚えてる?昔よく一緒に遊んだ明日香だよ、リッくん!!」
そう言われて俺は昔の記憶を探る。
確かに明日香という幼馴染が昔いた記憶はある。
だが、そいつは男の子だった記憶がある。
野球をしたり、サッカーをする活発なガキ大将タイプの奴で、誰も明日香を女の子とは思っていなかったはずだ。
だが、目の前にいるのはクラス3大美少女の1人だ。
「えっと、人違いじゃあ……。」
俺がそういうと、彼女は恥ずかしそうな顔をして、「人違いかぁ〜、ごめんね〜。」と言って俺から離れていった。
……ふぅ、助かった。
と、俺は安堵のため息を吐く。
実際はおそらく幼馴染だと言うのは間違いない。
家に帰って目元や口元などをアルバムで確認するとそっくりだった。
ならばなぜ美少女である彼女が走り去った事で安堵のため息をついたかと言うと、昨日の帰りの事だった。
義妹である空を助けた俺は、義妹を置いて一足先に自宅に戻っていたのだ。
が、その帰り道で俺は彼女にあったのだ。
しかも、その様子はひどく怒っている様子で、最初は俺が何かをやったのかと思うくらいの剣幕だった。
「君。女の子を助けるためとは言え、暴力を振るうなんて信じられない!!」
幼馴染は俺の顔を見るなり、そう言ってきた。
「はぁ、お前、何言ってんの?」
どこからともなく現れた幼馴染の言葉に俺は苛立ちを覚える。
当然だ。
少なくとも、俺は正しい事をしたと思っている。
何しろ身内とは言え、女の子を助けたのだ。
それを見ず知らずのクラスメイトに文句を言われたくない。
「なんでも暴力で解決しようとするから、暴力は無くならないんです。あなたみたいな人がいるから、ダメなんです!!」
などと言い放つ目の前の脳内お花畑女に、俺は無性に腹が立ってしまったのだ。
「じゃあ、どうすれば良かったんだよ?」
苛立ちを抑えられず、俺は彼女に強めの口調で尋ねると、彼女はビクッと肩を揺らす。
その顔は今にも暴力を振ってくるのではないかと言わんがばかりの怯えようだ。
「私にまで怒鳴るなんて最低ですね!!話し合いで解決すれば良いに決まっています!!」
と、声高に訴えてくる。
……あんたみたいに話の通じない奴が多いから、喧嘩がなくならないのが分かってないのか?この子は。
その自らが正しいと言わんがばかりの発言に俺は怒りを通り越して呆れる。
「これだから不良はダメなんですよ!!理性を持って話し合えばきっと相手もわかってくれるはずなのに。」
理想論を押し付けられた上に、勝手に不良扱いをされた俺は反論しようと口を開こうとすると、幼馴染はこちらを見て嫌そうな顔をする。
「話しかけないでください。汚らわしい!!同じ学校の様ですから会っても話しかけないで下さいね。
もし話しかけてきたら今日あった事を生徒指導の先生に伝えますからね!!」
と、人の話を聞く前にその場から走り去ってしまう。
言いたい事だけ言って走り去っていく幼馴染の後ろ姿を目で追いながら、俺はその理不尽さに怒りが再燃する。
自己紹介の時に見た少女の顔と名前が一致し、同じクラスである事はわかった。
そして、記憶の中にある幼馴染の名前とも一致したので、アルバムから一緒に撮った写真を見つけ出して幼馴染である事まで確定させた。
だが、クラスで会うことでまた難癖をつけられても堪らないので他人の振りをする事にしたのだ。
幸いにも、今は海西に姓が変わっているので他人の振りをすれば話しかけてくる事はないだろう。
そう踏んで、俺は彼女と距離を置く事を決めたのだった。
因みに、義妹の方に目を向けるとその表情はどこか上の空で、ぼーっとしているのだった。
「ねぇ、明日香。明日のお休みってなんか用事ある?どこか寄らない?」
幼馴染にクラスのモブ子が話しかけてきたのが目に止まる。
俺はその様子を机に伏せながら、伺っていると幼馴染は申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせる。
「ごっめーん!!明日は用事があって出かけないといけないの!!」
「そっか〜。じゃあまた今度ね!!」
と言って、その場を離れていった。
その会話に興味がなくなった俺は、明日の予定を思い出す。
……やべ、明日は例の予定がある日じゃねぇか、くそ。気が進まねぇ。
俺は翌日に控える予定、松平陸のサイン会の予定を思い出して憂鬱な気持ちが芽生える。
そう、松平陸は死んでしまった親父の姓をペンネームに使った小説の出版記念のサイン会が行われる日だった。
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