第70話 俺が修羅場の当事者になるはずがない

『……デートだと思ってるって言ったの。』

俺の手を引き、機嫌よくショッピングモールにあるショップを眺める義妹の言葉の意味が理解できないでいた。


シンプルに考えると男女でお出かけ=デートのような構図は成立するように思うが、だからと言って俺たちに当てはまるかと言うとそうではない。


義理とはいえ兄妹なのだ。

それに最近は軟化してきたとはいえ、俺を嫌っていた義妹がこんなに早々と掌を返すだろうか?


それはない……。

好きな人を嫌いになるならいざ知らず、嫌いな人をすぐに好きになる事は難しい事だ。


もしそうだとしたら何が原因だ?

髪を切った事が原因か?それとも他に原因があるのだろうか?


わからない……。

ラブコメの神様がいるとしたら教えてくれ!!


いくら作家をしていたとしても、高校生にしか過ぎない男の想像力ではその答えは簡単には導き出せない。


その違和感が楽しそうな義妹との関係性を余計に分からなくさせる。


だがそんな疑問符だらけの俺を他所に、義妹は何かめぼしい物を見つけたのかとあるショップに飾ってあるマネキンが着ている服を見て手を離す。


「……この服可愛い!!」

明るい声色でガラス越しに見えるレースのスカートを眺める。たしかに義妹が好きそうな、どこか可愛らしい感じの服だ。


義妹は目を輝かせてこちらを見て来たかと思うと、「陸!!……私、ここが見たい!!」と言って、嬉しそうに俺に腕を絡ませて店内へと誘う。


……2歩、3歩。

店内に近づいていく。

すると、「あっ……」と言う声が店内から聞こえて来た。


その声のする方に視線を向けると、驚くことに幼馴染がこちらを見ていた。その驚きと戸惑いを含んだ視線にこちらもたじろぐ。


一方、義妹も先程の嬉しそうな表情を一変させ、俺が足を止めると同時に顔を硬らせる。


「明日にゃん、どうしたの?」

俺と義妹と幼馴染が金縛りにあったようにその場に立ち止まり、視線をぶつけ合っていると、その背後から聞き覚えのある声が聞こえる。


その声により硬直していた視線が解け、俺はその声の主を見る。は昨日会ったばかりのギャルがそこにはいた。


ギャルを俺が見たことで幼馴染に向いていた視線がこちらに向く。その視線が俺を捉えた瞬間、ギャルがものすごく不快感に満ちた表情を浮かべてくる。


その表情に、俺は背筋を凍らせる。

その表情の持ち主はオンラインゲームで幾度と俺を葬ってきた相手なのだ。


付き合っている訳ではないが、昨日の今日でこの光景はなんとなく気まずい……。いや、命の危機すら感じてしまう。


だが、それ以上に驚いたのはその後ろにアイドル様までいるではないか!!


アイドル様も二人の視線の先を追って俺を見つけると……痛々しい表情で俺達を見つめる。それはまるで今にも泣きそうな表情だった。


義妹の友人が喜怒哀楽、三者三様の表情を浮かべていた。いやはや、俺に最近やたらと縁深い連中がよくもまぁ、ここまで揃ったものだ。


半ばその遭遇にどこか因縁めいたものを感じてしまいそうになる。


この連中も義妹同様、あまり俺の事を好いていない……そう思っていたのに、突然の告白や思わせぶりな態度を取るようになった彼女達に俺はどうしたら良いのか分からない。


誰かその答えを教えてくれ!!


そう思っていると、気まずそうな表情を浮かべる義妹が声を上げる。


「……み、みんな。ぐ、偶然だね」


「そ、そうだね……」

義妹の声にいち早く反応したのは幼馴染だった。


顔を硬らせたまま、交互に俺達を見てくるその視線が俺達にちくちくと突き刺さる。


「何してたの?」


「えっ?」

幼馴染が次に放った言葉がその場の空気をますます凍らせる。


何をしてたって……、兄妹として買い物に来ていたにすぎない。だが、それを言ったところでその直前に取っていた行動を思い返すとそう返せない。


「……買い物……だよ」


「そ、そうなんだ!!家族で買い物に来てるんだ!!」


「ふーん……」


何を焦っているのか分からないが、義妹の言葉に同調すると、疑いを持った視線で幼馴染は睨んでくる。そして、「そうなんだ……」と何かを含んだ声が俺の耳に届く。


……納得してくれた?

家族なのだからと言う理由があれば納得せざるを得ないだろう。


「けど、私にはそう見えなかったよ。……」


「「「えっ?」」」

俺の旧、旧姓を口にした幼馴染に反応した3人が俺の顔を見る。彼女達は俺の旧、旧姓を知らない。


俺と美内明日香が幼馴染だと言う事を他の3人はまだ知らない。


「川辺君、どう言うこと?」


「「「「はっ?」」」」

戸惑ったようアイドル様が俺の旧姓を口にするに再び俺を含めた4人の声が合わさる。


……どう言う事と言われましても、ねぇ。

むしろ、なぜアイドル様が俺の旧姓を知っているのか教えてほしい!!


混乱と嫉妬が渦巻く俺達を道ゆく人が道すがらに見てくる視線が痛い。


まるで針の筵……修羅場にいるような感覚がますます俺の立場を危うくする。何もしていないはずなのに。


「とりあえず……、一旦ここから離れない?」

ギャルも同じ様な感覚を覚えたのか、会話を強制的に打ち切る。


……よかった。この場から解放される。

内心ヒヤヒヤしていた俺は小さく安堵の息を吐く。

公衆の面前でのこの立場は辛い。


まるで浮気発覚した現場だ。俺が一方的に悪者の様だ。今日に関してはギャルが天使の様に感じ……。


「別の場所で……説明してもらうからね、


……前言撤回。

ギャルは般若の様なオーラを浮かべながら笑顔で俺のネットユーザーネームを口にする。


俺の修羅場がここで終わるはずが……なかった。


【後書き】

今更ですが、ラブコメなのにドロ沼展開になってしまいました。ラストはハッピーエンドで終わるので、最後までお付き合いいただけるとありがたいです。

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