第71話 彼女達がキャットファイトをするはずがない

俺はフードコートで美少女四人に囲まれて、小さくなっていた。


なんだ?この異様とも言える重い空気は?


美少女四人がそれぞれに俺を違う名で呼び、それがまた妙な沈黙を誘発する。


……どうしてこうなった?


特に悪事を働いた訳でもなければ四つ又をかけていた訳でもない。だが、どうして仲の良い彼女達がこうもギクシャクしているのだろう。


彼女達が睨み合っているなか、俺はこの状態について自問自答する。


「ねぇ……」

不意に、ギャルが言葉を発する。

その一言に、ギャル以外の一同がビクッと方を揺らす。


「あなたたち、何してたの?」


「えっ、いや……、家族で買い物を……」

目を泳がせた俺がいい訳のように家族での買い物を主張する。


が、ギャルは俺の言葉を遮るように、「嘘ね」と口にする。


俺は嘘をついているつもりはない。

ないのだが、義妹の言葉を思い出すと、嘘とは言い切れない部分もあってギャルの言葉に言葉を詰まらせる。


「じゃあ、お父さんとお母さんはどこにいらっしゃるの?二人にはお世話になってるから挨拶をしたいのだけど……」


「そ、それは……」

両親は海外にいる事を彼女達は当然知らない。

現状、二人きり暮らしている事を知られるとますます旗色が悪くなるから、必死で言い訳を考える。


一方の義妹はただ無言で俯いていて、何か言葉を発する事はない。


そんな様子を見比べたギャルは「はぁ……やっぱりね」と、ため息をつく。


「んで、二人は付き合ってるの?」

その一言がますます緊張感を増幅させる。


義妹はうつむきを増し、幼馴染は戸惑った表情でこちらを凝視し、アイドル様は聞きたくないのか顔を逸らす。


「ち、違う!!付き合っちゃいないぞ?」

俺は両手を振り、付き合っている発言を否定する。その言葉に義妹の表情が真っ青になり、他の3人は少し安堵した表情を浮かべる。


「じゃあ、なんで腕を組んでたの?」

不意に、幼馴染から突かれると痛い質問が飛んでくる。


「たしかに、カレカノじゃないのに腕を組むなんておかしく無い?」


「そ、それは……」

仲の良い兄妹ならいざ知らず、最初は他人のふりをしていた俺たちが腕を組んでいるのはおかしく思われても仕方ない。


「最近、二人が登校中に一緒に行く姿を……見てたよ?」

疑いの視線でこちらを凝視する幼馴染にグゥの音が出ないくらいに問い詰められ、俺は言葉を失う。


「それに、空ちゃんが倒れた日のリックの慌てようも異常だった……」


「そ、それは家族だから……」


「「松平(リック)君は黙ってて!!」」

家族だと言う事を言い訳にする俺に不信感を増したのか、幼馴染とギャルは揃って俺の言葉を遮る。


「空ちはどう思ってるの?」

言い訳ばかりの俺を黙らせたギャルは一転、穏やかな口調で義妹の真意を問う。


義妹は顔を上げる事なく、ただ黙っている。


「やっぱり、リックの事が好きなのね?」

言わざるは解なりと言わんばかりの言葉に義妹は肩身を狭くする。


「ははは、そんな訳が……」

乾いた笑いで俺はその言葉を否定しようとすると……、「……そうよ」と、さっきまで黙っていた義妹が口にする。


「そうよ!!私は陸が好きよ!!兄としてじゃなくて、男の子としての陸が!!」

その言葉に、俺はギョッとする。


たしかに義妹からの好意は薄々感じていた。

だが、それは義理の兄としての好意であって、一人の男としての好意では無い……そう思っていた。


義妹の本心を聞いたギャルは言葉を詰まらせ、幼馴染は義妹を睨む。そして、アイドル様はぎゅっとはを噛み締める。


その言葉が発せられてしばらく無言が訪れる。

意地、戸惑い、嫉妬、悲しみ……幾重にも重なる感情に場の空気の重さが最高潮に達する。


「そっか。空ちゃんも松平君のことが好きなのね?」


「……えっ?」

幼馴染の口からこぼれた言葉に、義妹は顔を上げ、ギャルはギョッとした顔をし、さっきまで顔を逸らしていたアイドル様が幼馴染の顔を見る。


『空ちゃんも……』

この言葉に幼馴染の本心が詰まっていた。


俺は幼馴染とは0からのスタートだと思っていた。だが、彼女は俺とは違う感情を抱いていたのだろう。


義妹と幼馴染が互いに視線をぶつけ合っている様子を見ていると、ギャルまでその会話に混じってくる。


「もって事は二人もリックの事が好きだったのか……」

その言葉に牽制しあっていた二人が驚いた。


無理もない、俺も彼女から昨日好意を伝えられたばかりなのだ。


彼女の戸惑いをよそに、俺は自分が何故こんな状態になっているのかが分からない。


こんな卑屈な俺に……。


『あなたねぇ〜。あんまり自分を卑下するもんじゃないよ?そんな事じゃ、自分の事しか見えないままで人の好意に気づけなくなるよ?』

ふいに、逢合さんの言葉が脳裏に過ぎる。


彼女達は俺のことを嫌っている。

……いや、嫌っていると思っていた。


だが、彼女達はそれぞれに自分の好意を口にして来た。その事に対して、俺は答えを出して来たか?


その答えはNOだ。

アイドル様以外ははっきりと答えを出していない。ただ戸惑い、曖昧にして来た……、そのツケが回って来たのだろう。


この状態で良いのだろうか?

今いる3人からの好意は嬉しい……。


だが、そうは言っても彼女達に俺は不信感を持っている。そう……。


「じゃあ、川辺君はどうおもっているの?」

不意に、先程まで黙っていたアイドル様が口を開く。


彼女は唯一、俺がはっきりと答えを出した人だった。そんなアイドル様が俺に答えを求めてくる。


「俺は……」

俺の言葉に4人の視線が集まる。


それに、俺は答えるしかなかった……。

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