第37話 俺たちがそんなに強いはずがない

「この前はよくもやってくれたな!!」

怒りの色を隠さないこの前の負け犬ヤンキーが俺に近づきガンを飛ばす。


他の不良達も俺の周りを囲むように広がり、逃げ場をなくす。俺は背後に後退り、幼馴染のそばに近づくと庇うように彼女を隠す。


不幸な事に彼女の背後はジャングルジムがあり、逃げ場はない。俺一人ならたとえボコられたとしても、一矢報いることはできるだろう。


だが、幼馴染がいる以上は彼女の身を守らないといけない。そうなるとどう立ち回ろうが、彼女の存在が枷になる。


それどころか、自分どころか彼女すら危険に晒す羽目になるのは目に見えている。


「ジャングルジムの中にでも入っていて……。」

冷や汗をかきながら俺の背後にいる幼馴染に声を掛ける。


彼女がジャングルジムに入ってくれれば時間は稼ぎにもなるし、110番に連絡することはできるはずだ。


しかし、俺は予想だにしなかった事態に見舞われる。


「ちょっと、あなた達。やめなさい!!」

その声とともに、幼馴染が両手を広げて俺の前に立ちはだかったのだ。


「ああ?なんだ、このアマは!!」


「ちょ、おまっ!!」

突然の幼馴染の行動に不良達は呆気にとられ、俺は慌てふためく。


「あんた達、こんな事して恥ずかしくないの?一人を相手に!!」

さらに口を止めることなく説教を垂れる彼女に対して不良達は「なんだ?テメェ!!」といきり立つ。


……ほんと、何やってんだ!!

身に危険が迫っていると言うのに彼女は一向に怯むことなく俺の前に立ちはだかっている。


確か、こいつらをのめした時に説教をされたが、この状況にあってもなお言葉で喧嘩を止められると思っているようだ。


……ははっ、馬鹿な女。

と、俺は幼なじみのことを心の中で侮辱する。

だが、彼女の両手を広げて立ちはだかる後ろ姿にどこかデジャブを感じる。


記憶の底に眠っていた彼女との思い出がフラッシュバックするかのように蘇る。あれは確か、幼なじみと初めて出会ったときの姿だった。


「いい度胸じゃないか、ネェちゃん。そこまで言うなら覚悟はできているんだろうな?」

一人の男が幼馴染の顔を掴み至近距離で睨みつける。その威圧感に彼女はゴクリと生唾を飲む。


だが……。


「暴力で何ができると言うんですか?ただ、あなたの将来が暗くなるだけですよ!!」


「ははは、馬鹿じゃねぇのこいつ?自分の立場がわかっていねぇみてぇだな?」

幼なじみの優等生じみた言葉に対して彼らはこれは傑作とでも言わんが笑いを浮かべる。


彼らの言う事は最もだ、今の状態で彼らが止まるとは思えない。それこそ、火に油を注ぐ行為だ。


いかにこちらに正論であろうとも、それが万人に通用するわけがないのだ。


「そういえば、こいつも可愛い顔してんな。男をのしたらヤっちまおうぜ!!」

下賤な笑みを浮かべる不良達に、幼なじみの身の危険を感じた俺は一歩前に出ようと帆を進めようとする……が、彼女の手は俺の体を抑えているため、前に出ることができない。


「寄ってたかって人を傷つけて、何が楽しいんですか?あなた達に未来がないのならご自由にすればいいですけど……、将来があるんでしょう?こんなところで後悔してどうするんですか!!」

俺の行動を抑えつつ、彼女はいまだに彼らに説教を垂れているので、不良は「うるせぇ!!」と彼女に殴りかかろうと体を動かす。


俺は庇おうとするが、彼女は一向に力をゆるめることなく俺の体を抑えている。今まさに殴られようとしているにも関わらずだ。だから、俺もうまく行動ができない。


そのせいで彼女に拳が飛んでくるはずだった。

だが、その時……。


「あれ?陸じゃん!!どうした?喧嘩か?」

と、呑気そうな声の玄白がモブ太とサブ郎と一緒に歩いてきた。

その声に不良の手が一瞬止まり、不良達が3人の方向を睨みつける。


「玄白……、モブ太、サブ……。」


……なんでおんねん!!

俺は内心ではツッコミを入れるが、正直ほっとしながら3人の名前を呼ぶ。


「なんだ、てめぇら!?邪魔すんじゃねぇ!!」

不良達が3人に気が散っているうちに俺は幼なじみを強引に引き寄せるといつでも逃がせられる位置へと移動する。


3人には悪い申し訳ないが俺と一緒に彼女を逃す駒にでもなってもらおう。


「楽しいことしてんじゃん!!俺たちもまぜろよ?」

モブがニヤリと笑いながら手を鳴らし、サブが軽くジャンプをする。

ちなみに玄白は少し後ろの方に後ずさっている。


だが、二人の得体の知れない迫力に不良達は気圧される。


戦力比はあちらの方が上なのに、不思議なことに頼もしさを感じながら、俺もメガネを外し髪をオールバックにす……るほど髪がなかった。


……そういえば、幼馴染に髪を切られたんだった。

なんとなく気合の入らない中、一歩甘えに出ようとすると、幼なじみが俺の服の裾を掴み、上目遣いで、「ダメ……。」と言ってくる。


俺はその言葉を無視して彼女の手を振り払う。

すると、「おいっ!!」と不良の一人が仲間に耳打ちする。


「あいつって、確かジュニアボクシングの優勝者のモブライアンじゃないか?」

と言う声が聞こえてくる。


「あぁ、確かにモブライアン•藻部山だ。じゃあその横にいるのはカンフーサッカーの寒川三郎か!!」


……なんだ、その二つ名は?しかし、二人とも有名人なのか?

この地域のアウトサイド情報など何一つ知らない俺は不良の会話にツッコミを入れつつ、モブライアン•藻部山とカンフーサッカーの寒川三郎と呼ばれた友人を見る。


彼らは威風堂々とした態度で不良達の前に立ちはだかっているのでおそらくはそうなのだろう。


……と言う事は玄白も二つ名持ちなのか?

俺はそう思い、玄白の方を向くと不良の一人が俺の求めていた情報を口にする。


「モブライアンとサブ川がいると言う事はもう一人は『腰巾着の玄山』か!!」

と言う声に俺は体の力が抜けるが、玄白は得意そうな表情で「やんのか?」と相手を煽る。


「……俺たちを倒したやつに、モブライアンに寒川か。勝ち目はないんじゃないか?」

不良の一人が突如怯んだのか、戦力計算を始める。


モブとサブの実力は定かではないが、その二つ名が事実ならば少なくとも格闘技経験者。3人でも十分返り討ちにする事は可能だろう。


「さぁ、どうする?お前ら!!」

なぜか腰巾着と呼ばれた玄白が脅しをかけると、不良達は後退り、また「覚えてろよ!!」と言ってつまらなさそうに逃げていった。


……はは、今度は100人くらい連れてきそうだな。

俺が不良達を目で追っていると、後ろでは腰が抜けたのか、幼馴染が地べたにへたり込んでしまった。



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