第44話 腰巾着がバカなはずがない……。「
「大丈夫だったか、空?」
掴まれた裾の先の怯える義妹に俺は恐る恐る声をかける。こんなに縮こまっている義妹を見るのは初めてで戸惑いを覚えざる負えなかった。
その声に気がついた義妹が俺の方を見ると真っ赤な顔をする。
「か、勘違いしないで!!お兄ちゃんってあんたの事を言ったんじゃないからね!!」
「わ、わかってるよ!!双子のお兄さんの事を思い出したんだよな?」
義妹に関する知っている情報を口にすると義妹はキッと俺を睨みつける。
「そ、それ以上言わないで!!」
「わ、わかった、ごめん!!」
触れられたくない過去があるのか、義妹は会話を止ようとするので俺も余計なことは聞かない。
俺は義妹と会話をやめると後ろを確認する。
アイドル様は俺にくっついたまま離れず、ギャルは幼馴染みにくっつきながら俺のことを睨んでいる。
そして、幼馴染みは「お兄ちゃん達、なにしてるの!!」と2人の兄に対して怒り始める。
玄白と談笑していた幼馴染みの2人の兄はビクッとなり、そして苦笑いを浮かべながら後づさる。
なぜ不良すら恐る彼らが幼馴染みを恐るのかはわからないが、どうやら家庭内でのカーストは彼女の方が上のようだ。
「兄ちゃん、今までどこでなにをしてたのよ?お母さんが心配してたんだからね!!」
幼馴染みの責め立てるような質問責めに彼らはただただたじろぐ姿を見る。
「やっぱり、美内さんって兄妹だったんだ。」
幼馴染み兄妹の光景を見た玄白が、呑気にこちらに向かってくる。
それを見た俺は忘れていた怒りを思い出す。
「……おい、玄白。何呑気にしてんだよ。まずいう事があるんじゃないか?」
「ん、なんの事だ?」
玄白はすっとぼけた様な言い方で目を逸らす。
「なんの事だじゃねぇ!!お前が裏切ったと思ってヒヤヒヤしたじゃないか。」
「俺がお前を裏切る訳ねぇだろ?勝算がなければこんな真似しねぇよ。」
「すんな!!しかも女子まで巻き込みやがって!!」
ふつふつと湧き上がる怒りに俺は握り拳を作る。
当たり前だ。もしかしたらここにいる全員を危険に晒してしまった可能性があるのだ。
その事を全然理解していない玄白の発言は普段温厚な俺をここまで怒らせているのだ。
「確かに、女子には悪いとは思ってるよ。ただ、ここにいる全員があいつらの標的だったんだ。その情報がなければこんな事しねぇよ。それに冷泉さんと出雲さんが来たのは偶然だったからな。」
玄白は俺の後ろにいるアイドル様とギャルの姿を交互に見る。
玄白の表情を見た2人が顔を痙攣らせ、俺の背に身体を寄せる。その行動を見て俺は玄白の方を向き直す。「どういう事だ?」と尋ねる。
「ん、ああ。あいつらがうちの学校の女子生徒に手を上げようとしていたって事を聞いてて、情報網で奴らの行動を逐一調べてたんだ。そしたらお前たちがターゲットになっている事を知って囮にさせて貰ってたんだ。」
「はっ?なんだよ、それ?お前が?なんで?」
意味がわからない。玄白が何故そんなことをしなければならないのかが俺には理解できなかった。
「この近辺には独自に自警団があるんだ。各校の代表が集まって暴行や犯罪行為を発見し未然に防いだり、抑止することが目的の組織が。その代表が今は俺って訳だ。」
「訳がわかんねぇ。なんでお前なんだよ?」
俺はが疑問をぶつけると、玄白は美内兄弟を指差す。
「あの人達と手を組んでるからだ。」
「はい?」
玄白が指差した方向にはどこをどう見ても不良にしか見えない幼馴染みの兄2人が幼馴染みに責められていた。
「あの人達が作り出した自警団の情報網で俺たちは各校の同志達と情報を共有しする事で生徒達の犯罪を未然に防ぐ事ができる。だけどそれはこちらから手を出せる訳ではない。」
「どうしてだ?」
「やっている事がたとえ正義だとしても、そこに力で対抗するとただの不良と同じことになる。なら、その行動をどう止めるかが問題になる。だから現行犯で抑えるか、彼らを追い落とす為の材料が必要になるんだ。」
というと、玄白は俺の顔をじっと見つめる。
「その囮に俺たちが使われたと……。」
「ああ、お前なら4人を守れるし、お前以上の囮はいなかったよ。これであいつらはお前たちに手は出せない。」
自信満々に語る玄白の姿に俺は頭を抱える。
「どうしてそう言えるんだ?個別に復讐されればひとたまりもないし、あいつらが大人しくなるとは思えねえよ。」
玄白の言葉に俺は心に募る不安を払拭できなかった。
「ああ、大丈夫だ。美内さんに睨まれたらそんな真似は出来ねぇよ。それに、俺たち自警団のリストにも載っちまったから、あいつらは今頃、仲間割れを起こしているだろうよ。」
「どうして?」
「そろそろ学校に連絡が行くだろうし?あいつらは1人じゃ何もできねえから自壊するさ。」
「訳わかんねぇ〜。じゃあなんで先に言わなかったんだ。」
「言える訳ないだろ?自警とはいえ、表には出せない行為だからな。」
「……俺たちは知っちまったけど?」
呆れた表情で玄白に話すと、彼はハッとした表情に変わる。
「やべ、知られてしまった。」
「……おい、殴っていいか?」
馬鹿面を浮かべる玄白に俺は再度握り拳を固める。
「ちょ、ちょいまち!!お前たちも助かったんだから許せ!!」
殴る構えを見せる俺に玄白は慌てて止めようとする。その姿を見て俺はバカバカしくなり握っていた手を解く。
「それより、美内兄弟って何者だ?あいつら、相当びびってだけど……。」
「あっ、ああ。あの人達は数ある不良グループを壊滅させてきたひと達だ。力だけではなく、行動で。それが伝説的で、不良の間では鬼の美内兄弟っていわれてるんだ。」
俺が幼馴染みに叱られている2人を見ていると、玄白は自慢げに話す。
「じゃあ、喧嘩は弱いのか?」
と、言うと玄白は首を大きく横に振る。
「いや、強い……強いらしい。あまり喧嘩をする姿は見た事ないけど。」
「さよか……。」
と言っていると、美内兄弟がこちらに向かって歩いてきた。
その瞳は鋭く、俺に刺さっていた……。
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