第45話 カラオケが修羅場になるはずがない……
俺はなぜか、カラオケに来ていた。
もちろん玄白達と……ではなく、俺を嫌っていたクラス4大クラス4美少女達(一部妥協)とだ。
玄白達の茶番騒動の後、俺は幼なじみの兄弟に睨まれながらも「妹を頼む。」と言われたが、なんのことかさっぱりわからずに結局「はぁ……。」と力なく返事をしたまではよかった。その返事に幼馴染みは少し赤くなっていたのが不思議だった。
そして、玄白がその流れでカラオケに行こうなどとほざきやがったので、俺は丁重に断った。
玄白の今回の行動はどんな事情があろうと決して褒められたことではなく、そんな不信感のある中で彼女達を同行させることに嫌気がさしたからだ。
その言葉を聞いて玄白は「ええ〜。」とショックを受けていたが自業自得だ。本日は反省していただいきながら帰宅願いましょう。
そして俺は女子達を送るために駅までの道すがらの同行を願い出た。
その言葉を彼女達は受け入れ、玄白達と別れた。
玄白達と別れた後、俺は女子達に自らの軽はずみな行動により彼女達に怖い思いをさせたことを謝罪した。
当然のことながら今回は玄白の独断であるため、俺に非はないはずなのだが怖がっていた姿を見ていたので謝らずにはいられなかった。
義妹はその言葉に反応することはなく俯いたままだし、アイドル様は「仕方ありませんよ。」と許してくれた。幼馴染みは「守ってくれてありがと。」と、嬉しそうに言っていたが、唯一ギャルだけは違った。
「私はまだ許せない!!謝罪に合わせてお詫びをするべきです!!」
と、声高に叫ぶ。
もちろん俺にできることならするが、俺を毛嫌いしているギャルのことだ、不当な要求をしてくる可能性があるので少し恐ろしかった。
だが、彼女が言い放ったのは玄白のせいでおじゃんになったカラオケへ付き合うことと、彼女を送っていくことだった。
……そんなことか。
内心ほっとしていると、まさかの事態が起きた。
そのお詫びに幼馴染みはおろか、義妹やアイドル様も身を乗り出して乗ってきたのだ。
彼女達が感じたはずの恐怖心が俺がカラオケに連れて行くことによって晴れるのならば安いものなのだが、そんなことで晴れるのならとも思うので承諾すると、彼女達はなぜか三者三様に嬉しそうだった。
そして今に至るのだが、俺は易々と承諾してしまったことを後悔した。
俺自身、女性とカラオケに行くことは愚か、一緒に過ごすことはなかったのだ。もちろん彼女と呼ばれる空想上の存在もいなければエスコートすることもできない。
そんな俺が世の男子が聞けば全員が羨み、殺意の視線をぶつけて来るであろう美少女4人とカラオケに行くのだ。
……これなんてラノベ?と、こんな展開なら誰もが思うだろう。
しかし、彼女達は俺を嫌っているのだ。俺にとっては地獄だった。
そして、カラオケの受付でも男性店員の刺すような視線を感じながらも受付を済ませると、カラオケルームへと入っていく。
ちょうど5人座れるくらいの室内に女性陣を先に入室させ、俺は出口の一人席に座ろうと待っている。
義妹、ギャル、幼馴染みの順番で室内に入っていくが……俺は幼なじみに腕を引かれて2人がけのソファーに幼馴染みと共に座る流れとなった。
その瞬間、室内の空気が変わる。
殺意の満ちた顔をする義妹に、嫉妬のような膨れっ面をするギャル、そして幼なじみの行動を見て室内に入り損ねたアイドル様がオロオロしていたのだが、彼女も何か決意したような表情で室内に入って来ると俺の隣に滑り込むように着席したのだ。
「へっ?」
「あっ!!」
「ちょ!!」
「なっ!!」
アイドル様の突飛な行動に室内にいた全員が間抜けな声を上げる。
それもそのはず、2人掛けのソファーに、いかに彼女達が細いとはいえ俺を挟んで3人が座るのだ。その距離感は自然と近くなる。
……密、密です。密は控えてください!!
俺は密着するようにくっついて来るアイドル様の行動に戸惑いながら、最近見た中国発の新型ウイルスにパニックになる人々が描かれたドラマのセリフを思い出す。
「れ、冷泉さん、近いです……。ハナレテクダサイ……。」
アイドル様の発する甘い匂いにくらくらしながらも、俺は離れるようにお願いするが、彼女は気を良くしたのか、ますます体を寄せて来る。
「ちょ、何やってるのよ。綾乃!!」
アイドル様の行動に真っ先に声をあげたのは幼なじみだった。
「えっ?何って、私も今日は怖かったから海西くんのそばにいようかなって思って……。」
真っ赤になりながらも、無茶な言い訳をするアイドル様の様子に対抗するように、幼なじみも同じように体を寄せる。
俺の両肘に当たる二人の双丘の感覚が当たるたびに倒れそうになる。
俺の脳はすでにショートし、訳も分からない状態でなすがままにされていた。
……何これ、なんでこうなっているんだ。
目を回しながら天国のような地獄を味わっていると、義妹が刺すような鋭い視線でこちらを睨んでくるし、ギャルはハイライトを失ったような目でこちらを見て来る。
何これ、なんかデジャブが……。
「二人とも、それくらいにしておきなさいよ。リックがもう限界に近いみたいだし……。」
ギャルが今にも握り潰しそうな勢いでデンモクを握る様子を見て、俺は恐怖を覚えてしまったせいで、ギャルがゲームのアカウント名で俺のことを呼んでいたことに俺は気がつかなかった。
そして、その名前を聞いた義妹が複雑そうな表情でギャルを見ていた。
今、地獄の饗宴というなのカラオケが始まろうとしていた。
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