第27話 アイドル様は彼を見つけたはずなのに
翌週、私が通学していると美内さんが声を掛けてきた。
どうやら数年ぶりに再会した幼馴染の事で興奮しているみたいだった。
その興奮ぶりに少し引いていしまったのだけど、恋する女の子はそういうものだと理解はしているので笑顔で話を聞いた。
口数多く幼なじみの話をする美内さんはスマホを差し出してくる。
その写真に写っていたのは少しのメイクをした爽やかな青年がにこやかな笑顔を浮かべてファンと握手をしていた。
だけど、その表情にどこか嫌悪感を抱いた。
その笑顔にどこか周囲にいる人間のような作り笑顔が
重なった。
読者に阿るような笑顔……。
それが私にとっては気分が悪くなる。
「ねっ、かっこいいでしょ?」
「……う〜ん、そうですねぇ。私はあまり好みではないかもしれません。」
「え〜、爽やかでかっこいいじゃん。」
「まぁ、爽やかといえば爽やかなのですが……完璧過ぎるというか、自意識過剰のように見えます。」
当の本人が後ろで話を聞いているのにも気づかずに私は美内さんに本音を告げる。
そして、私の話を聞いてしまった彼がショックを受けて足早に学校に行く後ろ姿を私は見つけた。
……海西くんだ、今日こそ彼に事実を確かめよう!!
私は彼の心中を知ることもなく、決意を新たしていると……。
「じゃあ、綾乃さんはどんな人が好みなのよ?」
美内さんはどこか不満げな顔で私に好みを尋ねてくる。
私は男性の好みというものを考えたことがあまりなかった。
中学校は女子校だったし、周囲の男性は自分の好きな人間たちではなかった。そんな時に脳裏に現れたのは、塾で一緒に勉強をしていた川辺君の姿だった。
「……う〜ん、どこか抜けてて可愛い人かな?」
「冷泉さんって、ダメ男が好みなの?趣味悪い。」
彼女はどこか不満そうな表情で私の好みを否定する。
私だってダメ男が好きなわけじゃない。ただ彼のように不器用ながらも頑張る姿を見ると応援したくなるし、そんな姿に心を動かされる。だからってその子がダメ男てわけじゃないはず……
「そんな訳じゃないよ。ただ、私の周りって完璧主義な人が多くて息が詰まると言うか……。」
「あぁ〜、冷泉さんってお嬢様だもんね。だったら海西とかどうなの?あの人、抜けてそうだし……」
クスクスと笑いながら私が今気になっている人を美内さんはピンポイントで言い当ててきた。
「うーん、彼はちょっと違うかな。そもそも私には好きな人がいるし……。」
その言葉にドキッとしながらも、話をそらす。
海西君が好みなわけじゃない。けど、川辺くんかもしれないという可能性がある以上は彼のことが気になっても仕方がないので事実だけを話すと、美内さんは目を輝かせる。
「えっ?冷泉さん、好きな人がいるの!?誰?誰?同じクラス?」
「う〜ん、同じ塾に通っていた人なんだけどね。この学校に行くって言うから一緒に勉強をしてたの。だけど、まだ彼とは会っていないから、もしかしたら落ちちゃったのかも……」
彼が落ちたとは考えたくなかったけど、事実クラス分けの時に名前がなかった事を思い出して気持ちが沈む。
「ダメ男君だからね……。まっ、次の恋を探しなよ〜」
そんな私を見て美内さんは励ましかどうかわからない言葉で励ましてくれる。
だけど、その言葉に私はカチンときてしまう。
ダメ男かどうかはさておいて、少なくとも彼は私の好きな人なのだ。
「そうですね……。あなたも幼馴染と頑張ってくださいね。会えるかどうかは分かりませんが……。」
引きつる顔を隠しながら嫌味……応援の言葉を送ると彼女は絶望的な顔で「ちょっと〜」と私の制服の裾を掴んできた。
……人の好きな人の悪口を言うから。
そんな私の心中を知らない彼は、すでに教室でくしゃみをしていた。
※
その日の放課後、私は彼に話しかけようとチャンスを窺っていた。
人に見られながらの尋ねるのはどこか恥ずかしい。だから彼が一人になる瞬間を見定めてアタックに行く!!
そう決心した私は餓えたハイエナのように彼の行動を注視する。
すると彼が動いた!!
荷物を抱えて教室から出ていくので私も荷物を置いたまま教室から出ていく。
彼は靴箱とは違う方向に向かって歩いていくのを気づかれないように尾行する。
その姿はまるで犯人を尾行する警察官のようだ。
人混みをかき分けながら彼を追いかけると、図書室へと入って行った。
彼が入った後をすぐに追う事に躊躇をした私は緊張した心を落ち着かせるために深呼吸をする。
彼だったらどうしよう、彼じゃなかったらどうしよう……。
二つの気持ちが交差する胸中が絡まり合って鼓動が高なる。
少し落ち着いた私は図書室のドアを開ける。
カラッと言う音とともに開かれたドアの向こうに彼がいることは間違いない。
私は図書室に入るとざっと中を見回す。
だけど、最初は彼が見つけられなかった。
書架の方にいるのかと思ってその方向に足を向けるが彼はいなかった。
彼が入っていく姿はこの目で確認したはずなのにおかしいな……。
疑問に思いながら今度は机の方を眺める。
すると、ゆっくりと本を読む彼の姿を見つける。
その瞬間、胸の高鳴りが最高潮になる。
その高鳴る鼓動を必死に押さえて彼の座る席の向かいの席の方へと歩く。
彼の席の正面についた瞬間、私はあるものを目の当たりにする。
普段は隠してある彼の目が見えるのだ。
髪の毛が分けられていてその片方には髪留めがつけられていた。
その様子を見て、私は彼が川辺君である事を確信した。
そう、その髪留めは私がプレゼントしたものだった……。
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