第28話 アイドル様は嫉妬するはずがない

私は半年間会えなかった彼とようやく再会した。


彼に会えた事といまだに私があげた髪留めを使ってくれている事に感動しながらも、彼の正面の席に座る。


彼は真剣に小説を読んでいて私に気がつかない。

私もその真剣な眼差しと、再開できたことへの感動からなかなか声をかけられない。


図書室を包む雑踏の中、私はしばらく無言で彼の様子を伺う。

だけど、このままではここにきた意味がない。


「あの……、すいません。」

私は勇気を振り絞って声をかけると、彼は驚いたのか、「はっ、はい!?」といって読んでいた本を落としてしまう。


その様子を見た私は彼に会えた喜びと彼の慌てように顔の力が抜けてつい微笑みが出る。そして彼が落とした本を拾うと彼に手渡した。


「あ、ありがとう。」

彼はなぜか緊張した面持ちで私から本を受け取ると視線を逸らしてしまった。


……どうして緊張しているんだろう。

彼の様子に疑問を抱きながら私は彼の名前を呼ぶことを決意する。


「あの……、もしかして川辺君?」


「はい!!」

昔の名前で呼ばれた彼の戸惑いは半端ではなく、今にも目を回して倒れてしまいそうだった。


しばらくその様子を見つめていたけど、私は思い切って彼の髪留めに右手を伸ばす。

戸惑いがマックスになった彼は緊張して固まってしまった。


「あっ、これ……。」

彼の髪に右手が触れ、私があげた髪留めに触れながら声を出すと彼は真っ赤になって立ち上がると、逃げ出すように図書室の入り口のほうに向かって走り出す。


その姿を見て私は引き留めようとすると、彼は足をもつれさせて勢いよく転けてしまった。


「だ、大丈夫?」

私は転んでしまった彼を見て心配になり近くが、私の心配をよそに彼は「大丈夫です〜!!」といって走り去ってしまった。


「……やっと見つけた。」

その姿に唖然としながら、どうして逃げたのかわからないまま私は嬉しくなる。

この時の私はまだ気付いていなかった。


彼が、私を塾で一緒に勉強していた人だと知らなかったことを……。


川辺君が同じクラスにいたことを知って喜んでいたけどなかなか話す機会もないまま、週末を迎えた私は中学校の同級生と一緒に市内に出かけた。


「ねぇ、綾乃は好きな人と会えた?」

友達と一緒に買い物をしながら歩いていると、友達がそのことを尋ねた。


「え、川辺君?うん、会えたよ!!名前が変わってたから最初は気がつかなかったんだけど、同じクラスになってたんだ〜」

友人にこれまでのことを説明すると、彼女は相槌を打ってくれる。


「浮かれちゃって〜。親に反抗してまで追っかけていった愛しの君だもんね〜。一緒のクラスになっただけでも浮かれるよね〜。私のことも裏切っちゃって〜。」

友達の言葉に私の顔が火照る。


親に反抗したつもりはないし、友人を裏切ったつもりも毛頭ない。

ただ、1週間の無断欠席も再入試の時も私の体調が悪かっただけで……。


……嗚呼、ビョウジャクなカラダがニクい☆


「で、どこまで彼とは進んだの?」

友人が茶化すように話を進める。


「どこまでって、この前初めて話したよ!!」


「えっ、それだけ?」

彼女は私の話におどろいている。

だって、彼はあれから私を敬遠する様になったのだ。その事を友人に伝えると、彼女は呆れた顔をする。


「あんた、何がしたの?」


「ううん、何もしてない。」


「じゃあなんで彼がにげてるのよ!?」


「さぁ?」

友人に問い詰められるけど、何がをした心当たりはない。


「さぁ?じゃないわよ!?塾の時に何かしたとか、あの時と何か変わった所があるとかなんか無いの!!」

怒りだした友人の言葉を聞いた私は原因を考える。だけど、思い当たる節がない。


「その様子だと、思い当たる節はなさそうね……。じゃあ、彼に彼女でもできたんじゃない?」


「へっ、そんなはずは……。」

友人の言葉に驚いた私は顔を上げて否定する。人見知りの彼に彼女ができたなんて考えたくなかった。


だけど彼はかっこいい(美化120%)から、それは否定できない……。友人の話を聞いて不安になっている私に、恐ろしい現実が顔を出す。


街を歩いていると、その視界に見慣れた姿を捉えたのだ。


何という偶然なんだろう……彼がとある不動産屋の前で家の広告を眺めていた。


その姿を見て、私は嬉しくなり彼に声をかけようと友人を置いて、まるで犬が尻尾を振るように彼の近くにいく。


すると、そばにいたもう1人の影に気がつく。少し歳上であろう綺麗な女性だった。


『……じゃあ、彼女でも出来たんじゃない?』

その姿を見て私は先ほど友人が言っていた言葉を思い出す。その言葉と現在の姿が重なり合って私はショックを受ける。


そして、その様子を見ていると女性が微笑みながら川辺くんの頭に手を伸ばし、彼も真っ赤な顔をしている。


その姿は今の浮かれていた私にとどめを刺すのは簡単だった。


「綾乃……、急に止まってどうしたの?」

置いてきぼりをくらっていた友達が私に追いつき、話しかけてくれるけど、私の頭は働かない。


「……行こっ。」

私は元来た道の方に踵を返して、現場から立ち去る。


……見ていられなかった。

その後、友人が何があったか尋ねて来たけど、放心状態の私は答えることが出来なかった。


そして翌週、事件が起こってしまう。

私の初恋は一筋縄ではいかない事をこの時の私は初めて……知ってしまった。

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