第47話 ギャルはひとりぼっちのはずがない……
私、出雲理沙は中学校の頃、ひとりぼっちだった。
今でこそギャルのような格好でクラスの3大美少女と話したり、遊んだりしているけど本来の私は地味で冴えないどちらかというとオタク系女子だった。
それもそのはず。私は小さい頃から親が転勤族で、友人ができてはすぐにお別れしなければいけないと言う境遇で、最後の転校では既に友人関係が出来上がったクラスメイトの中に馴染む事が難しかった。
だからいつも一人でご飯を食べたり、本の世界に閉じこもる毎日を過ごしていた。
そんなある日、私は一つのゲームと出会う。
『ガーディアンファンタジー』だった。
ゲーム上で繰り広げられる人々の交流に憧れてゲームを始めた私は、その壮大なスケールのフィールドと音楽に引き込まれてすぐに虜になった。
だけど、その憧れもすぐに水泡と化した。
ゲーム初心者の私がすぐにゲームが上手くなる訳じゃない。
四苦八苦しながらもレベルを上げていったけど、プレイの拙さと、コミュニケーション不足から他のプレイヤーから敬遠され、フレンドがなかなかできなかった。
だからプレイの大半がNPCと共に行動する羽目になり、憧れていた現実とは程遠いものだった。
……やっぱり現実でうまくいかないと、ゲームでも上手くいかないのかな?
そんな思いでプレイを続けていたある日、私はとあるクエストに挑戦していた。
ダンジョン内にいる飛竜を倒すと言うクエストだ。
ただ、そのクエストは私にはまだ早かったようで、思うように先へ進めない。アイテムを駆使しながらも限界まで進んでいったが、すぐにアイテムが底を尽きる。
そうなれば後は死を待つのみ……。
新たなモンスターが現れて、弱わった私に襲いかかってきた。
……やっぱり、私には無理なのかな?
画面の前で涙目になりながら、キルされるのをただ倒されるのを待つだけの状態だった。
すると、私の操るキャラの後ろから一人のプレイヤーがその魔物を目掛けて斬りかかった。
ザシュッ!!と言う効果音と共に魔物は倒れて消えていく。その画面を見た私は夢でも見ている気分になった。
「大丈夫ですか?」
助けてくれたプレイヤーからチャットが入る。
「は、はい……。けど、もう回復アイテムが底を尽きてしまって動けないんです。」
と、私も打ち返すと彼はしばらく私のキャラを見る。チャットが帰ってこないので、また見捨てられるのかなと、不安に思いつつも再びチャットを打つ。
「あの……、このダンジョンから逃げるのを手伝ってはもらえないでしょうか。」
すると、彼は黙ったままで回復魔法を私に掛けると先へと進もうと歩き出す。
……やっぱり見捨てられるんだ。
ゲームでも、学校でも私は誰からも見放されてしまう運命にあるんだと、自分の人生を呪う。
すると、先へ進もうとした彼からチャットが入ってくる。
「せっかくここまで来たのに、撤退なんてもったいないですよ?手伝いますから、一緒にクリアしましょう。」
何の感情もない文字がパソコン上に映し出される。
だけど、私には何故かそれが眩しい。
救ってくれた上に手助けをしてくれる彼が、私にとって救世主のように見えた。
すぐに私は喜んで、「はい!!」と答えた事を未だに覚えている。
そして、彼に背中を押してもらいながら飛竜を倒し、そのクエストをクリアした事を覚えている。
その日、私は初めて自分からフレンド申請を行った。私が緊張する中、彼は「喜んで。」と味気ない言葉で私のフレンド申請を承諾してくれた。
初めてのフレンドに私は大喜びし、その日から彼と一緒にゲームを楽しむ日々が続いた。
彼がいつログインしてきてもいいようにゲームを常に起動させ、勉強の傍らで彼がインしてくる事を待ちわびた。
彼がインしてこない時は落ち込み、インしてきたら大喜びでゲームをする。そんな日が一年くらい続いた一緒ある日、彼からこんなチャットが舞い込んでくる。
「ごめん、明日からあまりゲームができなくなりそうなんだ。」
彼が打った文字に私はショックを受けた。
彼に依存していた事は分かっていたし、ゲーム上の関係だからいずれは無くなる関係だと言う事も承知していたはずなのに、全てが終わったような気持ちになる。
「どうして……?」
思考が追いつかないまま、シンプルにその意味を彼に問う。すると、彼は間髪入れずに答えてくれた。
「俺、今年受験なんだ。だから塾とか行かないとい
けないんだ。だから今までみたいに一緒に遊べないんだ。」
彼の言葉は私を現実へと引き戻す。
同い年かどうかはわからないけど、私も今年は受験生なんだ。本来なら、遊んでいる暇はない。
だけど、彼といる事がたのしくて、嬉しくて……、現実を見ないようにしていただけだった。
「私も一緒……。今年は高校受験なの。」
と、返信すると彼から「君も?」と返信が来る。
その文字に「うん……。」と答える。
すると、彼からの返信が途絶える。
私自身、別に可笑しな事は言っていないはずなのに、急に途絶えたチャットに不安を覚えた。
「受験生だけど、君ともっと遊んでいたい……。」
鬱陶しい奴と思われないか不安を覚えながらも、私は彼に本音をぶつける。このまま自然消滅は嫌だった。
すると、彼からの返信が来た。
その文字列にどんな事が書いてあるか恐怖を覚えながら、恐るおそる彼の記した文字を読む。
「俺もだ。じゃあ、日時を決めてゲームをしよう。そして受かったらまた心置きなく遊ぼう!!」
私は彼の記した言葉に安心したが、心の底で不安が拭えなかった。
そして、あるシステムを思い出す。
「うん。分かった……。けど、お願いがあるの。」
「何?」
「私と結婚してほしい!!」
キーボードを打つ手が震えながらも記したチャットに彼はしばらく無言になる。
……我ながら、重い女の子だ。
返事が来るまでの数分間、私は自己嫌悪になる。
だけど、彼の答えは「いいよ。結婚しよう」だった。その答えに私は大喜びし、部屋中を這いずり回った。
そして、ゲーム内のステータスだとしても初めての結婚に胸をときめかせながら、ステータス上に記された一文を何度も見返した。
リックのマリッジリング……。
結婚した相手の名前が記されたアイテムで、彼の方にはリィサのマリッジリングと記されているはずの固有アイテムだ。
だけど……その時はまだ、一年後に最悪な形で出会っていたとは、この時の私は夢にも思わなかった。
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