第23話 俺を見てアイドル様が落ち込むはずがない 

休みが明けて月曜日の昼休憩。

普段通りに授業受ける俺たちだが、クラスの空気がなぜか重い。


その原因を探ると、クラス3大美少女の面々がそれぞれに悲壮感を纏っていたのだ。


義妹は隣の席で顔を伏せ、幼馴染は魂が抜けたかの様に天を仰ぐ。そして、アイドル様はというと……何故か俺の事を見ている。


……えっ?気のせいじゃないかって?


俺もそう思いたいけど、なぜか視線を感じるのでクラスを見渡すと必ずと言っていいほどアイドル様がこちらを見ているのだ。


しかもその視線は熱い視線という訳ではなく、恐ろしく冷ややかな視線で俺を見ているのだ。


……俺、何が悪い事したかな?


疑問を感じながらも、俺は机に顔を伏せてその視線から逃れようとするもあいもかわらず背中に視線が突き刺さる。

そして時々、「はぁ……。」と大きなため息を吐く。なにか悪い事をしたとすればクラス中のヘイトを集めるのは必至だ。


頭の中で何かしたかを必死で思い出そうとするけど、何もない。むしろ、接点すらないのだから悪い事をしようがない。


……いや、図書室で会った事はあるけど、それが目障りだと言うのならそもそも話しかけ来ないで欲しい。むしろ、近づいてきたのは彼女の方だ!!


様々な言い訳が脳内を交差するが、結局は理由は分からなかった。


「綾乃ん〜、どうしたの?なんか今日元気ないじゃん。」

すると、天の助けと言わんばかりに誰かがアイドル様に声をかける。


……どこの誰か知らんがナイス!!

俺は机に伏せたまま、強く手を握る。

少なくとも、これで俺を睨む理由がわかるハズ……。


「あっ、理沙。ちょっとね……。」

アイドル様に声をかけたのはどうやら我が不倶戴天の敵、出雲理沙のようだったあ。

……敵ながら天晴れい

声に出せないから心の中で最大限にほめたたえる。だって声にしたらきっと罵倒が飛んでくるに違いない。


「ほんと、どうしたのよ。空ちも明日にゃんも元気ないし、綾乃んまでなんか不機嫌じゃん。この前は3人とも妙にテンション高かったくせにぃ〜。」

天敵は妙なニックネームで3大アイドルを呼んでいる事が判明!!……って、そんな事はどうでもいい。


それよりも、他の二人も元気がないらしい。

義妹については家族なのに、喧嘩をした日から口を聞いていない。というか、顔すら合わせてないのだから終わっている。


幼馴染は幼馴染で一昨日までは元気だったのはこの目で見ていたが、今日までに何があったのかは気になるが、そんな事よりもアイドル様だ。


何故俺を見ては冷ややかなな目で見てくるのかを教えて欲しい!!天敵よ、なんとしても聞き出せ、聞き出してくれ!!


天にも祈る思いで聞き耳を立てる。


「いえ、ちょっと一昨日嫌なものを見てしまいまして……、それで落ち込んじゃいました。」


「どう言うこと?」


「……先日お話しした話のなんですけど。一昨日にその方を街中でお見かけしたんです。」


「へぇ〜、偶然だねぇ。けど、あっちはまだ気付いてないんでしょ?」


「はい、全然気づくそぶりがありません。」

天敵と話すアイドル様の口調が強くなり、視線がますます突き刺さってくる。


……WHY?まず先日の話の中身がわからないし、全く俺には関係ないハズだ。なのに、俺を冷ややかな目で見てくるのは何故?


「それで、その人が一昨日何かしてたの?」


「うん、女の人と……。」


キーンコーンカーンコーン!!

アイドル様たちの話を遮るように、昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴る。


ごん!!

チャイムの音を聞いて俺は伏せていた手を滑らせて机に額を強打する。


その音を聞いたのかアイドル様達はこちらを睨みつけている(ような気がする)。


俺は額を摩りながら、途切れてしまった会話の続きが気になりモヤモヤする。


「綾乃ん、休憩終わったからまた後で話を聞かせて貰っていい?」


「そうですね、ちょっと相談したいこともありますので是非……。」

アイドル様の元気がなくなった声がなおさら話の中身が気になってしまう。


だが、無常にも時は過ぎていってしまう。

5限目が始まってしまっては答えを知りようがない。


俺は頭を掻きながら、その答えを考えつづけた。方程式の答えなんて今はどうでもよかった。


授業の間も、俺の背中に彼女の視線を感じ続けた事は言うまでもなかった。


放課後、俺は彼女が不機嫌な理由を知る由もなく、帰宅の準備を始める。


「陸、帰るのか?」


「ああ。帰るけど、どうした?」

帰り際、玄白が俺に話しかけてくる。


「今から暇か?ちょっと付き合って欲しいんだが……。」


「玄白が俺を誘うなんて珍しいな。なにがあったんだ?」


「いや、ボーリングのメンツを集めているんだけど、たまには陸も来ないかなって思ってな。」

俺は基本的には学校から直行直帰をするのであまりクラスメイトと遊ぶ事はない。


「分かった、いいよ。」


「本当か!?よっしゃ!!」

玄白は嬉しそうに声を上げると、俺と肩を組み他のメンバーのところにむかう。


今日に限ってはクラスメイトと遊ぶこともいいかな?と思ってしまったのかと言うと、今日一日、アイドル様の意味不明な視線に辟易してしまい、授業が終わる時には相当なストレスが溜まってしまったのだ。


だから身体を動かす事でストレスが発散できれば良かったのだ。


だが、そうは問屋が卸さなかった。

なぜなら玄白の周りには常にクラスの中でも上位のイケメン達が蔓延っているのだ。


その中に隠キャの俺が入ってしまうとたちまち溶けて蒸発するに決まっている。


その輝かしい陽キャグループの中でなんとか状態を保ちつつ、俺達はボーリング場へと向かう。


この後に起こる事件を誰も知る由はなかった。





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