第40話 俺がクラスを不穏にさせるはずがない……

翌日、俺は学校の靴箱で思考をフリーズさせていた。


靴箱を開けると、バサバサとラブレターが落ちてきたのだ。俺は初めて見る光景に戸惑いを覚える。


……いや、何これ!!呪いの手紙がなんか!?

ラブレターが靴箱から落ちてくる光景を見た事が有るだろうか?その答えは否!!……いや有ったわ。


うちのクラスには7人もの美男子、美少女が集まっているのだ。その連中の靴箱にラブレターが入っていることは何度か目撃した事がある。


……いやいやいや!!髪を切ったからって急にラブレターをもらうなんて事あるか?ないだろ、普通。


数枚のラブレターを隅々まで眺め、ラブレターであろう事を確認する。中にはダミーもあるであろうが、表面上はれっきとしたラブなレターだった。


「よう。陸、おはよー!!」

目の前の光景に戸惑っていると、後ろから玄白が声をかけてきた。その声の方向に首を壊れたブリキ人形の様に動かすと、玄白は俺の肩に腕を回しながら「どうしたよ?」と尋ねてくる。


そして、俺が手にしているラブレターが目に入ったようでニヤリと笑う。


「ようこそ、こちら側へ」


「なんだよ、こちら側へって?」

玄白の様子に訝しんでいると、玄白は笑いながら肩を叩く。


「いや、何。時期にわかるようになるから気にするな!!それより、昨日は大変だったな。」


「ああ、昨日は助かったよ。けど、よく俺たちがいる所に居合わせたな?」


「ああ、お前らの後をつけていたからな!!」

玄白はふんすと鼻息荒く言い放つ。


「なっ、おい!!いつからつけてたんだよ?」


「お前らが神妙そうな面持ちで学校を出て行った時からかな?クラスの美少女の一人と恋愛沙汰があったら面白いじゃん!!」

玄白はニヤニヤと笑いながら教室へ向かって歩く。


「はっ、何言ってんの?あいつとはそんな関係じゃない。ただの幼馴染だよ!!」

玄白の言葉に慌てて首を振ると、玄白は「はぁ」とため息をつき俺を見る。


「どうだか?……それより、昨日の奴らと何があったんだ?」

玄白はさっきのおちゃらけた表情から一変して真面目な顔になり、俺に尋ねてきた。


「ああ、入学式の時にリーダー格3人が妹にちょっかい出そうとしてたから止めに入ったらキレられたんだ。それを返り討ちにしたんだ。」


「はっ?陸が!?あいつらを?」

驚きを隠せない玄白は目を見開いて俺を直視する。


「ああ。あいつらはたいした事なかったけど、昨日お礼参りに来られたんだ。」


「んで、あの数か……。」

俺の話を聞いた玄白は感心したのか、軽蔑したのかはわからないが何か渋い顔をする。


そして教室に着いた俺たちはドアの前で立ち止まる。


「その事であと相談があるんだけど、いいか?」


「ん、ああ……いいけど、どした?」


「あとで話す。」

玄白は俺の言葉がきになるのだろうが、誰が聞いているか分からないから今は答えられない。


暴力沙汰がバレれば俺はおろか、義妹や幼馴染にも迷惑が掛かるかもしれない。


玄白はその意味が分かったのか、「分かった。」と、うなづく。

こいつのこういう物分かりのいい所……好き!!


……いや、健全な意味でだからね?勘違いしないでよね!!


話をやめた俺達はそれぞれ自分の席に着くと、俺はラブレターの山を丁寧に整理して鞄に放り込む。


その様子を見ていたクラスメイトがざわりと声を上げたのに気がついてクラス中を見回すと、俺に対しての視線が痛い。


約1名の視線が特に刺さるのは何故だろう……。


「……おはよ、りっくん。」

そんな中、昨日の出来事の当事者の一人である幼馴染が俺の席へやって来る。その表情はどこかほのかに赤い気がする。


幼馴染の言葉にクラスメイト達が一段とざわめきを増す。クラスの美少女の1人が陰キャ相手に親しげな呼び方で話しているのだ。


「おはよう。」

そんな状況の中でも、俺は周囲を気にする事なく挨拶をする。挨拶されたら返すのが基本だよね?


だが、その一言だけで幼馴染はますます顔を赤くする。その様子を見て、玄白はニチャ〜と笑っているし、誰かさんは失神寸前だった。


だが、そのざわつく空気をかき消したのは2人の美少女(約1名はおまけ)だった。言わずもがな、義妹とギャルだった。


「……どうしたの?」

ギャルがクラスに漂う不穏な空気を察したのか、クラスメイトに声をかける。


すると幼馴染は「お、おはよ。空、理沙!!なんでもない、なんでもないよ!!」と、赤くなった顔を払うように振って2人の元へと駆け寄っていく。


その様子をポカンと見ていた俺に向かって玄白は肩を叩いて小声で呟く。


「モテる男は辛いねぇ〜。よっ、色男!!」


「はっ、何言ってんの?俺がモテるはずがないじゃん。」


「美内さん、あれはどう考えても脈アリだろ?行くの、行っちゃう!?」

ニヤついた表情で絡んでくる玄白がうざくなった俺はため息をつく。


「あいつは幼馴染だし、友達だぞ?モテててるわけじゃない。」

その言葉に玄白も釣られてため息をつきながら、俺の鞄を指す。


「マジか、ありえね〜。仮にモテないとするなら鞄に放り込んだものはなんだ?」


「……不幸の手紙?」

俺がそう答えると、玄白は頭に手を当て、天を仰ぐ。


「んなわけあるか!!小学生じゃあるまいし。ラブレターに決まってるだろ!!」


「じゃあ、罰ゲームで嘘コク?」


俺の言葉に玄白は唖然として黙り込む。


「とりあえず、俺がモテるはずがないんだからラブレターなんて淡い期待を持たせないでくれよ。」

その何気ない一言を聞いたのか、義妹が俺の隣の席で立ち竦み、俺を見ていた。


「空、どうかしたか?何が付いてる?」

俺が立ち竦んでいる義妹に気付いて声をかけると、義妹は我に返る。


「なっ、なんでもないわよ!!軽々しく話しかけないで!!」

彼女は相変わらずの口調で俺を牽制して、自分の席に座る。だけどその言葉にいつもの鋭さが薄いように感じてしまった。


俺達兄妹のやりとりを他の3人が凝視していることに、俺は気がつかなかった。

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